第39回 うつ病の足を引っ張る睡眠問題
﹁うつ病は心の風邪﹂という比喩を耳にしたことがある人も多いだろう。その出自は私も知らないが、1990年代の後半には雑誌やメディアでもしばしば取り上げられていたと記憶している。もともとは﹁うつ病は︵風邪のように︶誰でもかかる可能性のある病気、苦しかったら躊躇せずに受診して欲しい﹂くらいの意味合いだったはずだ。
ところがその主旨が誤解され、﹁風邪のような軽い病気ではない﹂﹁患者の苦痛を軽視している﹂などの非難を浴びるようになった。実際、うつ病は治りにくい病気だ。一般的に治療期間も長いため社会生活上の支障も大きく、回復した後も再発防止のための治療や心配りが必要になる。風邪と同列に扱われたのでは患者も家族もたまったものではない。うつ病に苦しむ人に心ない発言をしたりネット上にカキコミをする者も出るに至ってはこのような比喩は一切やめてしまった方が良いと思う。
うつ病が﹁誰でもかかる可能性のある病気﹂であることは間違いない。うつ病はきわめて身近な病気である。調査に用いる診断基準によっても異なるが、12カ月有病率︵過去1年間にうつ病にかかった人の割合︶が約2%、生涯有病率︵調査時点までにかかったことがある人の割合︶が約7%にも達する。
そして先にも書いたように風邪とは異なりうつ病は治りにくい。より正確に表現すれば、完治しにくい。ある程度治っても一部の症状が残ってしまうことが少なくないのだ。無症状にまで完全治癒するのは治療を受けている患者の6人に1人程度しかいないという報告もあるほどだ。治療を受けても残存してしまう症状は残遺症状と呼ばれる。
残遺症状とは具体的にはどのようなものか。たとえば、私たちが初診のうつ病患者さん128名を3年以上追跡した調査結果では、残遺症状の頻度の高いものから、1︶睡眠問題︵不眠、時に過眠やリズム異常など︶、2︶仕事や活動上の問題︵仕事や趣味に対して興味を失う︶、3︶一般身体症状︵頭痛、体力低下や疲労感など︶の順番であった。
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