米Facebookが社内で﹁ユーザー(User)﹂という言葉を使わなくなったという。今はFacebookの利用者を﹁ピープル(People)﹂と呼ぶようにしているそうだ。The AtlanticのテクノロジーカンファレンスNavigateで、FacebookのMargaret Stewart氏 (製品デザイン担当ディレクター)がこのことを明らかにした。
ピープルという呼び方は個人的にしばらく前から気になっていた。最初に気づいたのは、MicrosoftがWindows Phoneに﹁Peopleハブ﹂というソーシャルコンタクト機能を設けた時だった。ピープルは漠然としていて、名称としては鋭さに欠ける感じがした。でも、それから数年でピープルという言葉を使うWeb/IT企業がいくつも出てきた。最近では、Instagramが﹁おすすめ﹂というタブの名称を﹁ピープル﹂に改めている。このように、インパクトのある言葉とは思えないピープルが好まれるのを不思議に思っていたところだった。
Stewart氏によると、﹁サービスを使うためだけに人々が存在しているかのように"ユーザー"と呼ぶのはごう慢に等しく、ヒューマンセントリックなサービスを構築するために、まずは人々がそれぞれ生活や好みを持つ存在であることを認識する必要があるという意見から"ピープル"という呼び方が広まり始めたそうだ。つまり、Facebookを使う人は﹁Facebookユーザー﹂ではなく、﹁Facebookを使う1人の人﹂というわけだ。
|
今年4月にFacebook CEOのMark Zuckerberg氏はF8カンファレンスで「People First」という理念を語った |
ピープルという表現には、一般的に対象を尊重しているニュアンスが含まれる。例えば、「Japanese are…」だと「日本人は…」だが、「Japanese people are…」とすると「日本の方々は…」という感じになる。利用者をピープルと呼ぶことで、より顧客を重んじる感じが伝わる。でも、ユーザーをピープルと呼び変えることで、サービスを構築する側が使う人のライフスタイルまで感じ取れるようになるものだろうか。
これは英語ネイティブに確認するしかないと質問してみたところ、﹁それはピープルを使うようにしたのではなくて、ユーザーという言葉を使わないようにした結果だよ﹂と言われた。ユーザーというと、日本語ではサービスを利用してくれる人とのつながりが感じられるような言葉だが、米国で顧客のことをユーザーと呼んでいるのはテクノロジー産業とドラッグディーラーぐらいなのだという。
﹁エっ、そうなの!﹂と疑問に思い、﹁user﹂を英英辞典で調べたら﹁何かを使う人、またはコンピュータや他のマシンなど何かを操る人﹂という説明に加えて、俗語として﹁違法ドラッグの常習者﹂と書かれていた。日本人である筆者には実感が湧かないが、ドラッグディーラーとドラッグ常習者の関係に見られるような顧客をあざけるようなニュアンスがユーザーという言葉から伝わりかねない。顧客を呼ぶのに適した言葉ではないようだ。
モバイル決済サービスを提供するSquareもユーザーという言葉を使わなくなった企業の1つだ。そのきっかけは取締役会において、Starbucks CEOのHoward Schultz氏から﹁なぜあなたたちはカスタマーのこと"users"と呼ぶんだ?﹂と聞かれたことだったという。飲食産業のCEOからしてみたら、顧客をユーザーと呼ぶのは失礼以外の何者でもなかったようだ。そして、その時にSquare経営陣は﹁それが当たり前になっていたから、なぜだかわからない﹂と答えるしかなかった。
他の産業、例えば長距離バスのGreyhoundの顧客は乗客(rider)と呼ばれるし、小売業ではカスタマーであり、または売り手(seller)や買い手(buyer)とはっきりと表現する。インターネット・サービスの利用者の場合、はっきりとした表現で当てはまる言葉がなく、しかも広告ベースのサービスだと顧客は広告主であり、利用者は"無料ユーザー"だ。そのため、曖昧な表現としてユーザーという言葉で呼ぶようになったのかもしれない。ほかにも、タイムシェアリングシステムの名残で、テクノロジー産業では利用者がユーザーと呼ばれ続けているという説もある。
ユーザーという呼び方はWeb/IT産業ではすっかり浸透しているし、そこに顧客をあざけるような意図はない。でも、ハッカーの世界には﹁luser﹂という俗語がある。User(利用者)とLoser(負け組)をかけて、テクニカルではない人やコンピュータを使えない人、ただ使うだけで何も生み出せない人などを呼ぶ言葉だ。こういうスラングも使われているのだから、Web/IT産業にも顧客をユーザーと呼ぶのがふさわしくないという感覚が確かにあるのだ。だから、Facebookはあしき慣習から脱却するために、利用者をユーザーではなく、ピープルと呼ぶようになったのだろう。