選挙権年齢が18歳以上に引き下げられるのを受け、いかに若者へ政治教育を行うか。日本の教育現場では「政治的中立性」の確保など、その導入を巡って模索が続けられてきた。だが、ドイツでは、幼い頃から身近な事に関心を持ち、徐々に政治的な事柄を自分の頭で考えられるようにしていく長期的な教育戦略をとっている。
(Yahoo!ニュース編集部)
ドイツでは【政治教育3原則】という教育方針が定められている。
法律って何? 自分の頭で考える
「法律の意味を解説するのではなく、生徒たちが自分の頭で考えるように促す。当然のように受け入れていることをもう一度問い直し、自分も政治に関わる有権者だと気づかせるのが目的」
政治を考える力は、身近な実感から
異なる意見に耳を貸すことが民主主義の第一歩
討論で大切なのは、「各自それぞれ意見が違っていいんだ」と安心させること、とニーマイツ教諭は言う。異なる意見に耳を貸すことが、民主主義の第一歩だ。
「民主主義では最終的に過半数が物事を決めるが、少数意見もあることを忘れてはならない。」
「私自身の意見を伝えることもあるが、絶対に押し付けないよう気を配る。生徒が自分のスタンスを固めるのを邪魔してはいけません。」
40年前に定められた【政治教育3原則】は、今も教育現場の指針となっている。
身近な法律の是非を巡る討論を終え、授業の後半はさらに濃い議論になった。ニーマイツ教諭は提案する。
「法律と自由について考えてみよう」
【18歳選挙権】で、日本は変わる?
いち早く「16歳選挙権」を導入し、政治教育を制度化し、成果を上げたオーストリア。歴史と向き合い、政治教育の芯となる「3原則」を練り上げたドイツ。両国の取り組みから浮かび上がるのは、民主主義を尊ぶ真剣な姿勢だ。
日本でも"主権者教育"の議論は盛んになりつつある。2015年内に高校生に配布予定の副教材『私たちが拓(ひら)く日本の未来』の内容が9月末に発表された。模擬選挙やディベートの進め方など、体験学習の例に多くのページが割かれている。
東京大学大学院教育学研究科の小玉重夫教授はこう語る。
「18歳の政治参加を一過性のトレンドに終わらせないために、実のともなった政治教育を続けていかなければならない。【18歳選挙権】は日本の民主主義のテコ入れになる。今こそ教育と政治の関係を正面から位置づけ直すチャンス。大人の側も一緒に勉強し、政治について考えていくという姿勢が望まれる」
だが、教員向け指導資料にはこのような記述がある。
「教員の個人的な主義主張を避けて中立かつ公正な立場で指導するよう留意しなければならない」。
政治的中立に違反した教師に罰則規定を設けるべきだ、という提案も自民党内から出ている。
「この副教材の存在がますます教員を萎縮させることになる」と危惧するのが、松下政経塾政経研究所 研究員の西野偉彦氏だ。
「授業プログラムの例よりも重要な"教員の意見表明権"が副教材には欠けている。政治について教員は自分の意見を表明できないのに、生徒には自分の意見を持ちなさいと促すのは矛盾ではないか。現場の教師からは"政治教育は怖い"という本音も聞く。主権者教育そのものをお蔵入りさせる学校が増えるのでは」
政治を自分事として考える姿勢が、民主主義のスタート地点。それは若者だけに限らず、全有権者に問われている。日本の民主主義をより成熟したものにできるのか。今、私たちは分岐点に立っている。
写真:アフロ
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