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目次
■ 一緒に働いていた「ある強烈な上司」の話
その﹁ある強烈な上司﹂は徹頭徹尾ロジカルな人。100%の再現性がないものを嫌い、感覚だけで何かを判断することを嫌う、とてもアクの強いタイプでした。
当時手掛けていたコンテンツのデザイン案を複数種類持っていき、﹁お前はどっちがいいと思う?﹂と聞かれたとき、﹁うーん、なんとなくこっちですかね、かわいいから﹂とウッカリ答えてしまったことがありました。
わたしの返答を聞いた彼の表情はみるみる変わり、﹁なんだ、その説明は! その﹃かわいい﹄というものを100%の再現性をもって俺に説明できるまで、﹃かわいいからこっち﹄という理由で決断するのは禁止だ!﹂と怒られるなど、極端な部分も多くありましたが︵これは今でも笑い話になる良い思い出です︶、わたしはその上司が大好きでした。
彼はとても好戦的な人で、﹁このチームの誰を敵にまわしても構わないから、俺はこのサービスを良いものにするためにどんどん変えていく。それで憎まれるなら本望だ﹂とまで言い切って、反感を買うような人でした。しかし振り返ってみると、言っていることはいつも本質的で、変なふうに気を使ったり、回りくどい説明をしたりせず、明快に、シンプルに、ゴールへの最短距離を目指して突っ走っているような、そんな面白い人でした。
彼の語録には面白いものがたくさんあって、その中でも特に強烈だったのが、
﹁他者とのコミュニケーションは、プレゼンと、そのレビューしかない﹂
という考え方です。
■ 「プレゼンター」と「レビュワー」という役割分担
その上司は、﹁自宅のテレビを買い換えたい﹂というときでさえ、奥様に対しプレゼンする勢いで各社テレビのスペックを調査・比較し、なぜこのテレビが今必要か、なぜこのスペックのテレビでないとダメなのか、この費用が我が家にもたらす効果は何かまで、きちんと説明できるように準備したうえで話す、というのです。
初めてこの話を聞いたときのわたしの感想は﹁めんどくさっ!﹂でした。
当時わたしが勤務していたのは、急成長中のネットベンチャー。スピードが何より大事で、権限をどんどん現場に委譲し、自分たちが良いと思ったものは積極的にリリースしていこう!というカルチャーだったので、いちいち細かく説明を求められることに、ものすごく抵抗感を覚えました。
そんなのいちいち説明しなくたって、ツーカーで分かるのがベンチャーのいいところなんじゃないの? むしろ、あなたが家族にすらそこまで説明しなきゃいけないなんて、そもそも信頼関係が成立していないんじゃない? と感じた覚えがあります。
とはいえ﹁騙されたと思って一度は試してみよう﹂と思い、オフィシャルな場で誰かと話すときには、毎回プレゼンの気構えで臨むようにしました。そして、逆に自分が何か相談を持ちかけられるときにも、﹁レビュワー﹂として指摘できることはないかを意識してみるようにしました。
■ プレゼンター:言いたいことやゴールを明確に
実践してみたところ、この考え方はとてもおもしろく、﹁場の状況を観察し、今、自分はどんな話題をそこに投げ込もうとしているかを意識する﹂という練習をする良いキッカケになりました。
練習を通じて、今まで自分がどれだけ自己中心的に、場の空気を考えず、好き勝手に話をしていたかが自覚できるようになり、﹁で、結局なにが言いたいの?﹂と困惑されることが減ったのです。
また、状況を俯瞰する癖がつくので、自分でも話している最中に﹁あれっ? わたしは何を聞きたくてこの話を始めたんだっけ?﹂と焦ることも減りました。
興味深かったのは、これが仕事以外の場面にも転用できること。たとえば誰かと雑談をするときなど、いろんなケースでも使えるんですね。
仕事とは関係ない場でも、わたしから何かくだらない話を振るとき、相手に対してプレゼンするような気持ちで話そうすると、必然、話の骨子や、なぜこの話をこの場でしているかを意識するようになりました。﹁なぜ、この話を今この場でするのか?﹂﹁この人たち全員に興味を示してもらうには、どう伝えればいいか?﹂を意識して、﹁話の落としどころ﹂を考えるようになったのです。
﹁昨日、新しくできた渋谷のホルモン焼きのお店に行ったら美味しかった﹂という話を例にとります。話題のゴールとしては、﹁新しいお店を見つけたら行くくらい、わたしはホルモン焼きが好きなんです!﹂という自己紹介かもしれないし、﹁なので、今度一緒に行きませんか?﹂というお誘いかもしれない。
﹁でも、ホルモンっていつ飲み込めばいいか分からないですよね﹂という他愛もない笑い話かもしれないし、実はお店の人が友達で、彼のためにお店の宣伝をしたいと思えば、また伝え方も変わるでしょう。﹁この話のゴールはどこに向かっているのか﹂を決めるだけで、1つの話題でもさまざまな﹁落としどころ﹂がある。これは個人的に面白い発見でした。
ちょっと話が脱線しましたが、つまり﹁プレゼンター﹂という﹁役割﹂になることで、自分が今この瞬間、どういう視座に立って物事を考えればいいかの物差しになり、何を話すべきか、見るべきか、知ろうとするべきか、が明確になったのです。
付け加えると、自分の状況を俯瞰できるようになったおかげで、﹁このメンツだから甘えてもいいよね﹂と、あえて好きなように話すという逆の振る舞い、つまり﹁意識的に力を抜いて相手や場に甘える﹂こともできるようになりました。
会社員兼ブロガー。仕事はWeb業界のベンチャーをうろうろしています。
一般女性が仕事/家庭/個人のバランスを取るべく試行錯誤している生き様をブログ﹁インターネットの備忘録﹂に綴っています。
■ レビュワー‥何かを発見して相手に戻す
話をするときが﹁プレゼンター﹂であれば、話を聞くときは﹁レビュワー﹂です。 ﹁レビュワー﹂としての役割を担当するときは、おのずと﹁わたしがこの人に戻してあげられる発見はなんだろう?﹂と意識するようになりました。﹁戻してあげられる発見﹂はどんなものでもよくて、自分自身の得意技が発揮できる部分ではないだろうかと思います。それはすなわち﹁自分にしかできないこと、知らないこと﹂であり、﹁自分の強み﹂とも言えるかもしれません。 例えばわたしの場合、﹁自分の強み﹂は俯瞰で物事を見ること、一見離れているけど実は関連しそうな情報を紐付けて提示してあげること、さまざまな職場や人間関係を経験したからこそ言えるそれぞれの共通項、あたりと自負しています。これがつまり﹁自分が持っている/得意としているスキル﹂になるかと思います。人によっては﹁相手が見落としている課題を掘り起こす﹂だったり、﹁トラブルになりそうな可能性を指摘する﹂だったり、﹁決断の勢いをつけるために背中を押す﹂だったりするかもしれません。 このように自分の得意分野を自覚し、その知見を活かして、相手に足りていない部分、見落としている部分がないかを照らし出せないか、注意しながら聞いてみると、自然と﹁どこに注力して相手の話を聞くべきか﹂も見えてきたのです。 ﹁レビュワー﹂としての役割は、﹁相手が気づいていない弱点を発見し、相手がまだ持っていない武器を手渡してあげる﹂ということ。 これはあらゆる場面で使える考え方だと思います。■ 一人で考えぬいておかないと、誰とも有意義な話はできない
何よりわたしがハッとしたのは、﹁物事はすべて自分一人で考えられるところまで考えぬいておかないと、誰とも有意義な話をすることはできない﹂という気付きです。 ﹁プレゼン﹂というと、準備が大変で、緊張するもの、いやなもの、というイメージがあったのですが、そうではなくて、﹁自分が考えたこと、伝えたいことをちゃんと相手に伝わるようなカタチで話せるよう意識して準備し、発表する場。そしてそれに対して違う視点からの指摘をもらい、より良いアイデアに磨き上げるチャンスの場﹂なのだと思います。 コミュニケーションにおいて自分が発話する側に回る際、﹁自分はプレゼンター﹂であると意識して準備するときに重要なのは、﹁なるべく相手が判断しやすいよう情報を用意し、自分の考えをまとめ、わかりやすく伝える﹂こと。つまり、﹁相手の時間を無駄遣いしない﹂という思いやりなのではないかと思います。 ﹁レビュワー﹂側に立った時に重要なのは、﹁自分の強みはこれだ﹂﹁この部分は他の人よりも優れていそう/経験が豊富そう﹂ということを常に意識し、相手が見落としていそうな部分を伝え、相手の役に立てることは無いか考えること。これもやはり、相手の立場に立ってみないとできないことだと思います。■ 豊かなコミュニケーションのためにできること
あなたが誰かに相談をしようと思ったとき、自分の中で﹁迷ってはいるけれど、おそらくこちらが正解ではないだろうか?﹂と思えるまで、選択肢の洗い出しと検討を行っているかどうか。 逆に、自分が誰かの話を聞くとき、レビュアーとして先入観を持ちすぎず、冷静な意見を伝えられるよう、話を聞いて、相手の役に立つような意見を戻せてあげられているかどうか。 この2点を意識するだけで、コミュニケーションはぐんと豊かになるのではないかと思います。ぜひ、お試しください! 今日はそんな感じです。 チャオ! 著者‥はせおやさい (id:hase0831)![はせおやさい (id:hase0831) はせおやさい (id:hase0831)](https://f.st-hatena.com/images/fotolife/h/hatenablog/20140901/20140901220541.png)