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バッテリ駆動時間を延ばすARMの「big.LITTLE」技術



●2種類のCPUコアを切り替えるARMの省電力技術

 スマートフォンやタブレットのCPUのバッテリ駆動時間を延ばすARMの新技術が「big.LITTLE Processing」だ。比較的大型の高パフォーマンスCPUコア(big)と、小型で低消費電力のCPUコア(LITTLE)を組み合わせて省電力化を図る。低負荷時の電力を最低限に抑えながら、高負荷時にも十分なパフォーマンスを発揮できるようにする。ARMは自社のCPUコアを組み合わせることを前提としているが、アイデア自体はx86を含めて幅広く応用できそうだ。

性能とバッテリへの要求は同時に増しているbig.LITTLE Processingの概要


 1CPUGPU

 CPUARMARMCPUCPU

 111%
●ヘテロジニアスマルチコアによって省電力化
性能と効率を両立

 この問題を解決するために、プロセッサベンダーはさまざまな技術を編み出してきた。その最新版がbig.LITTLEだ。big.LITTLEの実態は、ヘテロジニアス型のマルチコア構成で、動的にタスクをマイグレーションする技術だ。big.LITTLEの最初の実装は、ハイパフォーマンスな次世代コアCortex-A15と、低消費電力の次世代コアCortex-A7の組み合わせとなる。ARMはその有効性に自信を持っている。

 「高いパフォーマンスと高い電力効率の両方を実現することは、コンピュータにとって聖杯(究極の目的)だ。ヘテロジニアスマルチプロセッシングでそれを実現しようという試みは、数十年間に渡ってなされて来た。big.LITTLEで実用的になった」とARMのPeter Greenhalgh氏(Cortex-A7 & big.LITTLE Technical Lead, ARM)は説明する。

ARM Cortex-A7ブロックダイヤグラム
ARM Cortex-A15ブロックダイヤグラム
big.LITTLEのシステムアーキテクチャ


 CPUARM

 CPU2big.LITTLE2CPU

 big.LITTLECPUCPUCortex-A7Brian Jeff(Product Manager, ARM)

 Cortex-A15Cortex-A7Cortex-A15Cortex-A7DVFS(Dynamic Voltage and Frequency Scaling)IntelAMDCPUbig.LITTLE2CPU
big.LITTLEの性能と電力の領域各用途に対応するプロセッサ

●単一プロセッサアーキテクチャの弱点をカバー

 Cortex-A15DVFSCortex-A15ARMDVFS

 Cortex-A7Cortex-A15Cortex-A15Cortex-A7Cortex-A15

 big.LITTLECortex-A15DVFSCortex-A7Cortex-A15OSCortex-A7OSCPU
big.LITTLEタスク遷移のユースモデル両者の良いとこ取りを実現

 Cortex-A7へタスクを移すとCortex-A15をシャットダウンしてしまうため、電力消費はCortex-A7分だけとなる。CPUのアクティブ時間の90%近くはCortex-A7が稼働するため、平均の電力消費は抑えられるというわけだ。

 「単一のプロセッサアーキテクチャでは、高パフォーマンスと高電力効率の両方のポイントに到達できない。そのため、どちらかを妥協するしかない。しかし、プロセッサを、高性能コアと高効率コアの2つに分けると、妥協する必要がなくなる。2つのCPUが、異なるパフォーマンスレンジをスケールするからだ。例えば、Cortex-A15は一定ポイントから下へはスケールできないが、そのレンジはCortex-A7がカバーできる」(Greenhalgh氏)。

big.LITTLEと1アーキテクチャの比較

 CPUCortex-A15Cortex-A7

 big.LITTLE2big.LITTLE


 big.LITTLE

 ARMCPUCPUCortex-A9

 700MHzbig.LITTLE700MHzbigCortex-A15700MHzLITTLECortex-A7使bigCortex-A15CPU12%88%LITTLECortex-A7

 CPUWebLITTLECortex-A7
典型的ヘビーユーザーの1日の利用内訳プロセッサの動作周波数とその内訳用途毎の周波数の内訳


 CPUGPUCPU(Greenhalgh)Web

 WebWebWeb(Jeff)WebHTML5Web
Intel

 big.LITTLEbigLITTLE(20μs)

 ARMCPU使ARMCPUCortex-A7IntelAtomCortex-A7
ARM Cortex-A7/A9とBobcat、Atomの比較

 その代わり、Intelは現在、ハイエンドでは「近しきい電圧(Near-Threshold Voltage)」技術によって、CPUコアの動作電圧をしきい電圧近くまで落としても動作できるようにしようとしている。それによって、動的な電圧と周波数の遷移を、より低パフォーマンスかつ高電力効率の点まで落とし込むことが可能になる。下の概念図がそれだ。

Intelのパワーパフォーマンス戦略

 Intelの近しきい電圧動作技術も、big.LITTLEと同じように、プロセッサのパフォーマンスレンジを広げる試みだ。こうしてみると、プロセッサの省電力技術は、パフォーマンスレンジをいかに広げて、省電力性と高パフォーマンスを両立させるかという点が焦点になりつつあることがわかる。