笠原一輝のユビキタス情報局

Intel、22nm世代のAtom CPUコア「Silvermont」の詳細を公表

~最大8コア構成で前世代から性能は3倍、電力は1/5に


 Intel6()Web(2013)22nmAtom CPUSilvermont()

 Silvermont2CPU8In-Order(CPU)CPUOut-Of-Order()3

 Silvermont3D22nm51

 SilvermontSoCAvoton()Rangeley()/Bay Trail()Merrifield()

LPIAとして開発されてきたAtomの歴史


 IntelAtom2008Atom N270/230(Diamondville)UMPC(Ultra Mobile PC11PC)Atom Z500(Menlow)

 Windows PCIA(Intel Architecture)CPU

 IALPIA(Low Power IA)AtomPCCore1=1CPUPC

 1Atom
【図1】Atomプロセッサの進化の歴史(筆者作成)

 このように複数のバリエーションがあるAtomだが、製品のコアとなるx86プロセッサの部分は、1つの設計となっており、世代に応じて基本設計部分が更新され、それを元に用途に合わせた製品に落とし込む。

Atomの開発手法


 AtomQualcommSnapdragonKrait()ARM v7CPUSnapdragon S4()Snapdragon 800/600/400Krait

 CPUARM2NVIDIATegra 4ARMCortex-A15CPU

 CPU
IntelのAtomプロセッサのCPUコアの進化

 IntelAtomGPUAtom Z2760(Clover Trail)CPUIntelGPUImagination TechnologiesPower VR SGX544

 CPU(x86IntelAMDVIACentaur Technologies)()

 Atom45nmBonnell()LPIA(DiamondvilleMenlowPine TrailMoorestownOak Trail)

 32nm2Saltwell()BonnellBonnellSaltwellAtomAtom Z2400(/AndroidMedfield)Atom Z2670(WindowsClover Trail)Atom Z2500(/AndroidClover Trail+)Windows 8IA
【図2】Atomのデザインは、1つのCPUコアから複数の派生品を設計
【表1】Atomのプロセッサコア
開発コードネームプロセスルール詳細
Bonell45nmIn Order型の実行ユニットを備える最初のLPIAデザイン
Saltwell32nmBonnellの32nm版
Silvermont22nnmOOO型の実行ユニットなどの新マイクロアーキテクチャを採用
Airmont14nmSilvermontの14nm版?

Out of Order型の命令実行に対応


 IntelSilvermontSilvermontCPUOut of OrderOut of OrderCPU(IntelCore)CPUCPU

 Out of Order

 CPUOut of OrderCPUCPU

 Bonnell/SaltwellIn OrderIn OrderCPUCPUBonnell/Saltwell(SMTHT)

 BonnellIn Order2Out of OrderSilvermontOut of OrderSilvermontSMT

性能向上と、電力効率、メモリアクセスの改善

SilvermontのCPUマイクロアーキテクチャの特徴

 IntelSilvermont3

 Out of OrderAtom(Macro operation execution)

 Out of OrderSilvermont

 L132KB()+32KB()Out of Order

 1Silvermont21MBL2123424688Intel1+L2
SilvermontはCPU内部もモジュラー構成になっており、2コア+1MB L2キャッシュで1モジュールとなり最大で4モジュール(つまり8コア)まで対応可能

 通常2コア+L2キャッシュ(1MB)から構成されているモジュールは、システムエージェントと呼ばれるシステムバスにIDIとよばれるポイントツーポイントの内部バスで接続される。IDIはリード、ライト、それぞれのチャネルを備えた高速バスで、キャッシュの整合性はこのIDIとシステムエージェントを通じてとられることになる。なお、メモリコントローラは、システムエージェント経由で接続される。

 Silvermontでは、従来のAtomでは対応していなかった拡張命令セットにも対応する。Bonnell/Saltwell世代ではCore 2プロセッサ(Merom)でサポートされていたMMX/SSE 3までの対応となっていた。Silvermontでは、第1世代のCoreプロセッサ(Westmere)で対応していた拡張命令セットに対応。具体的には表2のような拡張命令セットが追加される。

【表2】Silvermontで追加される新命令セット
機能詳細
AES-NIAES暗号化/解読の命令セット
PCLMULQDQAES-GCMの処理性能を向上させる新命令
Intel Secure Keyランダムな番号生成命令
VMFUNCVMXが新しいEPTポインターをロードすることを許可
SSE 4.1SSE 4.1で追加された47の新命令
SSE 4.2SSE 4.2で追加された7つの新命令
Intel VT-x2ページテーブル拡張など
Real Time Instruction Tracing携帯電話でのデバックなどに利用できる実行コード
Intel OS Guardアプリケーションコードを利用したOSへの攻撃を防止
TSC Deadline Timerより正確なタイマー割り込みを可能にする
LBR FilteringLBR(Last Branch Record)のフィルタリング

 2Core(Sandy Bridge)AVX4Core(Haswell)AVX 2SIMDSSE 4.1/4.2x86IAWindowsAndroidSilvermont

 VT-x2VMFUNCAES-NI

新しいSoC向けの22nmプロセスルールに最適化された設計で低消費電力を実現

 すでに述べたとおり、Silvermontコアのデザインを採用した各種のAtomプロセッサは、Intelの22nmプロセスルールで製造され、今年後半に市場投入する計画だ。他のSoCベンダーは、その時点でも主力製品は28nmプロセスルールに留まることになる可能性が高く、他社に対するアドバンテージは大きい。

 IntelがSilvermontで利用する22nmプロセスルールは、基本的な技術は第3世代Coreプロセッサ(Ivy Bridge)や、第4世代Coreプロセッサ(Haswell)の製造に利用されているP1270と基礎技術は共有しているが、SoC用に最適化されたP1271となる。

 共有している部分はトランジスタの設計など基礎的な部分だ。Intelは22nmプロセスルールでトライゲートと呼ばれる、3D形状のゲートを採用したトランジスタを採用している。トライゲートトランジスタの恩恵は2つあり、ゲートの性能が向上することで、低電圧時の速度が35%向上する。これによりアクティブ時の消費電力が削減でき、あるいはリーケージパワーとよばれるトランジスタから漏れ出る電力を大幅に削減できる。現時点ではトライゲートトランジスタを、量産向けの製造技術で採用できているのはIntelだけで、単にプロセスルールの世代が1つ進んだという以上のアドバンテージを持っている。

22nmのAtomプロセッサの製造に利用されるのはSoC向け22nmとなるP1271
Coreプロセッサにも利用されているトライゲートトランジスタがAtomの製造にも利用される

 CoreプロセッサやXeonの製造に利用されるP1270が、多少消費電力を犠牲にしても性能を発揮できるようになっているのに対して、Atom製造に利用されるSoC向けのP1271はそのレンジもカバーしつつ性能を多少犠牲にすれば圧倒的な低消費電力が実現できるようにチューニングされている。そのレンジであっても、32nmプロセスルールに比べると性能が向上しており、32nm世代に比べると30%ほどトランジスタ性能が向上しているという。

Coreプロセッサなど製造に利用されるP1270は高性能に振ったプロセスルール。それに対してAtomの製造に利用されるP1271は、高性能から低消費電力までレンジの広さが特徴
P1271は前世代に比べて30%トランジスタの性能が向上

 また、P1271では、複数の種類のSoCを製造することが想定されているため、インターコネクトと呼ばれるダイ内部での配線構造やレイヤーも複数のオプションが用意されており、用途に合わせて採用できる(CPU用のP1270には1種類のみ)。また、SoCの用途を考えると、モデムのベースバンドなどのアナログ回路をダイ上に実装することも想定されるため、アナログ回路を実装した場合の性能も改善されているという。現在Intelはモデムを統合したスマートフォン向けSoCを提供していないが、P1271の導入によりその可能性がでてきたということができるだろう。

ダイの各層(レイヤー)間での配線レイアウトなどは用途に合わせて複数のオプションが用意されている
アナログ回路を構成するときの特性が32nmの時に比べて大幅に改善している

他社のIPを迅速に最適化するツール類も用意

CPUとGPUで熱設計の余裕を共有できる、Coreプロセッサで採用されているTurbo Boostに近い機能

 IntelSilvermontAtomPSilvermontPOS(ACPIS0)IntelSpeedStep Technology

 SilvermontCoreTurbo Boost TechnologySilvermontSoCGPUGPU使CPUCPU使GPU

 CCPUAtomC6S0ixOSCPUSoCC6

 IntelP1271SoCIPIntel32nmAtomImagination TechnologiesPower VRGPU IPSoCIPTSMCGLOBALFOUNDRIESSoCIntelIP1

 22nmIPSoC

32nm世代製品に比べて、処理能力で3倍、消費電力は5分の1に

 IntelはSilvermontの性能に関しても明らかにしている。Silvermontは現行世代のSaltwellに比べて性能では2~3倍程度に向上し、省電力に関しては5分の1程度に削減されるという。また、Intelは具体的な製品名こそ挙げなかったものの、現在市場で販売されている他社のSoCとの比較データも公開しており、デュアルコアのSilvermontとクアッドコアの他社製品で比較した場合、性能が1.4~2.1倍、消費電力では3分の2~3分の1程度に削減できると主張している

Intelが公開したSilvermont(22nm、スライドではSLMと表示)とSaltwell(32nm、スライドではSTWと表示)の性能比較。性能面では2~2.8倍、消費電力では4.4~4.7倍という結果
競合他社のSoCとSilvermontの性能特性を比較したグラフ。同じ性能で比較すると消費電力は圧倒的に低くなっているし、同じ消費電力で比較すると、Silvermontは性能が圧倒的に高くなっている
競合他社のクアッドコアSoCとSilvermontデュアルコアの性能比較。コア数が少ないのに、性能が1.4~2.1倍、消費電力が3分の2~3分の1程度になっている

 Intelによれば、Silvermont搭載SoC、現時点では以下のような製品が計画されているという。

【表3】Silvermontが搭載される予定の22nmのAtom製品
開発コードネーム対象マーケット登場時期
Avotonマイクロサーバー2013年後半
Rangeleyネットワーク機器2013年後半
Bay Trail-Tタブレット2013年後半
Bay Trail-Mネットブック2013年後半
Bay Trail-Dネットトップ2013年後半
Merrifieldスマートフォン2013年後半(OEM出荷)/2014年第1四半期(製品出荷)
未定組み込み機器未定

 特にIntelが力を入れていくのが、「Bay Trail-T」および「Merrifield」の開発コードネームで知られるタブレットとスマートフォン向けの製品だ。Intelによれば、タブレット向けのBay Trail-Tは今年の年末商戦をターゲットに搭載製品の販売が開始される予定で、スマートフォン向けのMerrifieldは今年中にOEMメーカーへの出荷が開始され、2014年第1四半期に搭載製品が登場という予定になっているという。

 SilvermontのパフォーマンスがIntelの主張している通りであれば、徐々に浸透し始めているIntelのスマートフォン/タブレット向けソリューションでより大きな市場の拡大を実現するために非常に強力な武器となるだろう。

(笠原 一輝)