WinMXとかWinnyとか、日本ではろくな扱いを受けていないP2Pですが、海外ではけっこう真面目に議論されてるんですよというブログ。
以下の文章はTorrentFreakの「Uncovering The Dark Side of P4P」という記事を翻訳したものである。
原典:TorrentFreak
原題:Uncovering The Dark Side of P4P
著者:Ernesto
日付:August 24, 2008
ライセンス: CC by-sa
P4Pは新しく、改善されたP2Pとして宣伝されている。そのテクノロジーは、ISPにとっては帯域の節約の、P4P対応ファイル共有クライアントにとってはダウンロード速度の向上の潜在的な可能性を秘めている。しかし、この新たなテクノロジーには暗部が存在する。強力なアンチパイラシーとの繋がりは、陰謀論者にとって燃料となり、ネット中立性が危機に瀕していると感じられるのかもしれない。 今週初め、エール大学およびワシントン大学の研究者たちは、P4P研究の最新の結果を公表した。P4Pは、︵BitTorrentを含む︶いかなるファイル共有アプリケーションをも、可能な限りローカルピアに接続させることで、ISPのコストを削減するようにするという新たなテクノロジーである。ISPにとってローカルのトラフィックは安価であり、ネットワーク負荷を減少させる。さらに、P4P対応のファイル共有クライアントは、通常のクライアントよりも高速にファイルをダウンロードする。 理論的には、これは素晴らしいアイディアである。しかし、P4Pはファイル共有クライアントの開発者と、ISPとの協同を必要とする。しかし、ここに問題があるかもしれない。実際、TorrentFreakが対話をした多くのP2P企業が、そのイニシアチブに興奮してはいないどころか、明確に、しばらくの間は協力することはないだろうと述べている。 P4Pワーキンググループには、エンターテイメント産業のメンバーやよく知られたアンチパイラシーロビーストなどが含まれているように、このプロジェクトにはダークサイドが存在していると言えるのかもしれない。その他にも、このテクノロジーをサポートしないであろうISPに加入するユーザの転送を鈍化させるのではないか、そしてそれは深刻なネット中立性の問題を引き起こすのではないか、ということを指摘する。 それでは、昨年設立されたP4Pワーキンググループのミッションステートメントから見てみることにしよう。オフィシャルミッションステートメント︵pdf︶から引用すると、グループの主要な目的の1つとしては、以下のとおりである。︵強調は筆者によるものである︶ P2Pの採用によって、コンシュマーサービスの改善を可能にし、支援するために協働するようISP、P2Pソフトウェア配布者に対して、この手法の採用を決断、実証、促進させ、その結果として、参加する団体の知的所有権︵IP)を保護しつつトラフィックを進化させること。 もちろん、P4Pグループは言い訳としてこの目的を含めたのかもしれない。しかし、疑わしく思える部分もある。現在のところ、技術的使用からは、この新技術が海賊行為フィルタや、その他のアンチパイラシー措置をサポートすると考えうる根拠は見出せない。しかし、MPAAやNBC Universal、その他エンターテイメント産業の代表たちがこのワーキンググループのメンバーとなっていることを考えると、そうした提案が、このプロジェクトの次の段階でなされるかもしれない。 なぜ、MPAAがこうしたことに参加しているのかと疑問に思われる人もいるかもしれない。明らかに、彼らの課題は著作権侵害を抑止することにあるため、P4Pグループに参加するすべての団体が、同じような方向にP4Pを推し進めようとしているとは考え難い。実際、これはそれほど驚くべきことでもない。P4Pワーキンググループは、エンターテイメント産業、ISP、P2P企業のコラボレーションとであるDistributed Computing Industry Association (DCIA)によって設立された。DCIAの目的は明確である。これは彼らのWebサイト上にも掲示されている︵強調は筆者による︶。 DCIAは分散ディストリビューションの商業的発展を提唱しているため、我々にとって最もプライオリティの高いものは、著作権侵害の排除である。我々のキーストラテジーは、現在、広範にわたって消費者に行われている無許諾のメディアファイル共有を抑制し、合法的商用サービスを増大させることに注力するものである。 これは、P4Pワーキンググループに別の視点が含まれていることを示唆するものであろう。もちろん、研究者たちは善良な意図を持ち、P2PユーザやISPに利益をもたらす新たなテクノロジーを実際に開発しようと思っているという点は疑いないだろう。しかし、このプロジェクトにはMPAAやその他のライツホルダーが含まれており、遅かれ早かれ彼らの製作を推進しようとするのではないか、とも思える。 DCIAのコラボレーションは、ハリウッドの大物や複数の大手テクノロジー企業によって、その主導権を握られている。2002年、両者は結集し、将来の技術的発展に注力するためにワーキンググループを設置することを良しと考えた。以下に、この問題について議論した当初の書簡︵pdf︶の一節を引用しよう。この書簡には、MPAA、Walt Disney、Sony Pictures、AOL Time Warner、Vivendi Universal、Metro^Goldwyn-Mayer、Viacom、News AmericaのCEOらが署名している︵強調は筆者による︶。 したがって我々は、映画、音楽、その他エンターテイメントコンテンツの無許可のピアツーピア闇取引を制限する技術的措置を見出すため、独立した、または既存のプロセスの一部として、高次レベルのワーキンググループを設立することを提案する。 そうしてDCIAは誕生し、その後P4Pワーキンググループが設置された。これが深刻な脅威であるかどうかについては、読者の皆さんの判断にお任せするが、いずれにしても遅かれ早かれ、時が来ればわかることだろう。 また、P4Pのもう1つの﹁ダーク﹂サイドについてもお話をしておきたい。これは、たとえP2Pユーザにとって非常にネガティブな結果をもたらすものであっても、ほとんど報告されていないものでもある。 最新のP4P研究報告書によると、P4Pが、非P4Pクライアントを利用する人やP4PをサポートしないISPに加入する人のダウンロード速度を低下させる可能性があることが示唆されている。これは、通常のP2Pユーザが全てのピアと共有する一方で、P4Pユーザはローカルピアとの共有をより行うようになっているためである︵両者が同一Swarm内に存在しうるという点に注意が必要である︶。これはネット中立性の原則に反するものと思われるが、とはいえ、それはネット中立性をどう定義するかにも依るのだろう。 P4Pがローカルトラフィックを優先させるため、P4Pユーザはテクノロジーを採用していないユーザとは、より共有しなくなる。これはアップロード、ダウンロードの双方に影響を及ぼすものとなる。しかし、報告書のデータでは、give and take比率のバランスが悪化することが示されている。つまり、P4Pを利用することで、他のISPに対してはデータを提供する以上に、︵比較的︶より多くのデータを受け取る︵mild leeching︶ことになる。これはアップロード速度がダウンロード速度より低速であるという傾向によって促進されることになる。 まとめると、エール大学およびワシントン大学の研究者たちは、少なくとも一部のユーザにとって、P2Pダウンロード速度の潜在的な向上を可能にする有望なテクノロジーを感がついたのだと言える。しかし、ISPやP2Pファイル共有開発者にこの新技術を受け入れさせることは容易ではない。もちろん、ISPにとってはコストを削減できるという点で、動機づけられるところもあるだろう。しかし、P4Pは非P4P ISPの加入者のパフォーマンスを低下させる可能性があるために、BitTorrentクライアント︵およびその他の開発者たち︶が、それほど容易にP4Pを採用するとは思い難い。 ︵いつものように︶最大の脅威は、アンチパイラシーロビーによってもたらされるのかもしれない。彼らはおそらくコンテンツフィルタリングやその他のアンチパイラシー措置を導入するよう強く求めてくるだろう。これまでのところ、彼らはそうしなかった。しかし、我々にとって、それは不可避のものであると感じられるのだが。 こうした指摘がありうることは、これまでP2P BlogのJanko Roettgersがたびたび述べてきている。P4Pワーキンググループだけが情報を持っていても誤解を招くだけであり、Ernestoの指摘するようなアンチパイラシーメソッドとしての利用可能性を否定していることを自ら説明し、広めなければならない、と彼は主張してきた。 おそらく、Jankoからの反論もあるのだろうなぁと思っていたら、やはりそのすぐあとに彼からの反論記事が掲載された。次のエントリで翻訳することにする。
コメント