マクドナルドがつぎつぎと閉店している
このところ、各地のマクドナルドにはこんなポスターが貼られていることがある。
別れを告げるドナルド
向こうをむいたまま、手だけを上げてドナルドが別れを告げているポスターだ。閉店が近い店舗の、入口に貼られていることが多い。
これは駿河台店
目白店
店舗ごとにメッセージがちゃんと違っている。たとえば駿河台店には「43年のご愛顧ありがとうございました」「(これからは)神保町店でお待ちしています」と書いてある。
近くの店舗をご案内
あだち充の登場人物がよくこの去り方をするというので、当サイトライターの大山さんがこのポーズを「あだち去(ざり)」と名づけていた。ぼくはこのポスターを「ドナルド去(ざり)」と呼びたい。
あだち充「ラフ」第10巻182ページより
こんなふうに、各地のマクドナルドはいま次々と閉店している。特に10月31日の閉店スケジュールはこんな具合だった。
2015年10月31日17時 神楽坂店
2015年10月31日17時 神楽坂駅前店
2015年10月31日17時 東京駅八重洲通り店
2015年10月31日18時 押上駅前店
2015年10月31日18時 新大塚店
2015年10月31日18時 駿河台店
2015年10月31日18時 柴又街道東小岩店
2015年10月31日19時 成城学園店
2015年10月31日19時 目白店
2015年10月31日19時 聖路加タワー店
すごい勢いでしょう。あの東京チカラめしだってこんなではなかった。
閉店の風景ってどんなふうなんだろうか。お客さんはどういう様子なんだろうか。気になったので、17時、18時、19時の閉店の瞬間を回ってみました。
10月31日16時、マクドナルド神楽坂店
まずは神楽坂店にやってきた。いまは16時。閉店まではあと1時間だ。
神楽坂店
ふつうに混んでいる
店内は混んでいるが、いつもどおりだ。あと1時間後に閉まるような感じはしない。
閉店記念のオマケ「ビックマックマグネット」をもらった
ビックマックを注文すると閉店記念のオマケがもらえるというので迷わずもらった。ビッグマックも閉店セールで200円になっていた。
「本日5時をもちまして完全にグランドクローズいたしまーす」「最後にお立ち寄り下さいませー」
店員さんの呼びかけを聞いて、グランドクローズっていうんだ、と思った。グランドオープンとかは聞くが、その逆もあったのか。﹁堂々閉店﹂みたいだ。
それにしても外の店員さんの顔が明るい。ふだんの日よりも笑顔だと思う。なんでかなと思ったけど、その理由は次の店舗で分かった。
だんだん人が集まってきた
閉店が近づくと、なぜか人が集まってきた。通り過ぎる人たちもこの人だかりが気になるようだ。
﹁誰か有名な人でもいるの?﹂﹁あ、今日でおしまいなんだ﹂などと言いながら通りすぎる。
ぞくぞくと人が集まる
人だかりが人だかりを呼ぶ感じ
道を挟んだ向いのお店の人々も見守る
マクドナルドの閉店にこんなに人が集まるとは思わなかった。
17時、閉店の時間になった
閉店の時間になり、店内からは少しづつお客さんが出て行く。
お客さんがいなくなった店内
そして17時20分ごろ、店内からぞくぞくと店員さんが出てきた。
お別れの挨拶なのかな
店員さんたちの列から店長が一歩前に出て、挨拶を始めた。
「約5年という短い期間でしたが、残念ながら閉店となりました。閉店にあたりこれだけ多くの方にご来店いただき感謝しております。」
「これからもマクドナルドをよろしくお願いいたします」
店長の声は震えていたと思う。あいさつが終わると、ギャラリーから拍手が送られた。
神楽坂には、もともとお堀のそばに約30年前からマクドナルドがあった。そこからここに移転したのが5年前だ。
店長が店員ひとりずつと握手をする
挨拶が終わっても、お客さんたちはしばらく残っていた
カーテンが閉められ、真っ暗になった
マクドナルドの閉店とはこのような一大イベントであったか、と思う。地元の人やお客さんがこれだけ集まり、見送られるような。
他の店舗だとどうだろう。コンビニの閉店に人が集まるだろうか。牛丼チェーンだとどうだろう、みたいなことを考えた。
17時45分、お茶の水駅前
マクドナルド駿河台店にやってきた。
駿河台店はJR御茶ノ水駅の近くにある。
店舗はこんな感じ
閉店間際だけど、神楽坂店のような人だかりはない。ちょっとさみしい。
数人が見守る程度
ドナルドがお別れをしている
なんと43年も続いているお店だそうだ。言われてみればあったような気はするけど、あまり認識がなかった。
とりあえず中に入ってみよう。
チキンマックナゲットを買いました
さっきのお店でビッグマックセットを食べてお腹がかなりいっぱいだったので、ここではナゲットだけを頼んだ。
でも2箱も頼んじゃったのでそこそこ大量だ。何をやってるんだという感じではある。
客席にすわらず、立っている人が結構いる
お店の中には、席に座らずに立っている人がかなりいる。その人たちは数人ずつで談笑している感じだ。
年齢層もさまざまで、お母さん世代と若い男性が話していたりする。みんな笑顔だ。
それでようやく分かった。彼らは店員のOBやOGなのだ。閉店にあたってみんなで集まっているんだろう。
さっきの神楽坂店でも、外の店員が笑顔でだれかと話していた。きっとOBやOGが集まっていて、それで楽しげだったんだろう。
寄せ書きがある
「学生時代からずっとお世話になりました」
学生街なので学生がよく利用していたんだろう。予備校の第二の教室と呼ばれていました、という寄せ書きもあった。
寄せ書きの魔力のようなものがあると思う。初めて来るお店なのに、急にしんみりしてしまった。昔から知っているような気分になった。
「43年間ほんとうにありがとうございました」
店内には垂れ幕もあった。これもやばい。ぐっとくるものがある。
閉店3分前
閉店が近づき、店内には蛍の光が流れはじめた。曲が流れるとみんな一瞬静かになる。でもまたすぐ賑やかになった。
曲に合わせてアナウンスが流れている。﹁本日はご来店いただきありがとうございました。またのご来店を心よりお待ちしております﹂。いつものどおりの内容なんだろうけど、またのご来店はもうないんだなとか思ってしまう。
18時、閉店
閉店の時間になった。お客さんが出て行き、ドアが閉められた。
閉店しました
お店の中には多くの人が残っている。お店にあつまったOBやOGと現役の店員たちによる、お別れ会のようなものが開かれているようだ。
中では店員たちが一言ずつ別れの挨拶をしていた。そうやって駿河台店の営業は終わった。
19時、目白店
駿河台店のお別れ会を見た後、目白についたときにはもう19時になっていた。
JR目白駅のすぐそばに、
マクドナルド目白店はある
目白店は19時でもう閉店していた。店の外にはそれなりに人が集まっていた。
そして店の中にもまだたくさんの人がいる。さっきの駿河台店と同じで、OBやOGたちが集まっているようだ。
外には結構な数のギャラリーがいる
電車のラストランとかもそうだけど、やっぱりこう、最後となると来たくなるものがある。今のぼくもそうだし。
しばらくすると店員さんたちが出てきた。
挨拶をしている
お別れの挨拶をしている。それによると、店員の多くは別の店舗で働くことになるらしい。
じつは駿河台の店舗でもそのようなことを言っていた。散り散りにはなるけど、店員を続ける人も多いのだ。みんな仕事なくなっちゃうのかなと思ってたんだけど、そうじゃなかった。
店員さんたちがひっこんだ後、お母さんと女の子が閉店とは知らずにやってきた。
それに気づいた店員さんが、女の子に風船をあげていた。
風船をもらう女の子
この店でお客さんに渡したのはこの風船が最後になった。女の子も帰り、お客さんは本当にいなくなった。
中ではどうやら、店員さんたちによるお別れ会が開かれているようだった。
閉店するとどうなる
閉店した後、店舗はどうなるか。この1週間前に閉店したマクドナルド本郷店のようすを見てみた。
がっつり閉店しております
「M」の跡が見える
もうこうなると、閉店の余韻みたいなものはない。マクドナルドの居抜きで何かが入るんだろうなという予感しかない。
ちなみに神楽坂店の跡地はマツモトキヨシになるらしい、とギャラリーの一人が言っていた。これからはそういう、元マクドナルドのお店があちこちに現れるんだろう。
一大イベントだった
もっとひっそりと閉まるものだと思っていた。こんなに人だかりができるなんて。
牛丼チェーンの閉店に人だかりはできるだろうか。立ち食いそば屋さんはどうだろう。
マクドナルドは昔からあったし、あって当たり前だと思っていた。でもそうじゃないんだね。