特集 2017年11月15日

雪山を完全に甘く見て、レスキューヘリで運ばれた話

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昨シーズンの冬のこと。
ぼくは群馬県の赤城山に登山をしに行って滑落し、足首を折ってレスキューヘリで病院まで運ばれる事態となった。
めったにあることではないこの経験を、強い自戒を込めて語り残したいと思う。

※注:山岳救助は命がけの非常に危険な任務です。この記事を読んで、「レスキューって簡単に来てくれるんだ」とか絶対に思わないでください。
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「挑戦!雪山ハイキング!」



OK
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……というような情報を鵜呑みにして、危険性を甘く見て向かった結果、僕はレスキューヘリで雪山から救出されることになった。
そのあとの入院生活は2週間におよび、各方面に甚大な迷惑をかけることになった。
手術が想定外にきつくて、しばらく動けなかった
手術が想定外にきつくて、しばらく動けなかった
以下、僕がレスキューされるまでの当日のいきさつを振り返るので、どこに事故の原因があったのか、画面に蛍光マーカーで線を引きながら読んで欲しい。

「ファミリー登山の山だから、大丈夫だよ」

群馬県の赤城山。標高1828m。
日本百名山には入っているが、湖畔の1360m地点から始まる登山コースは短く単純で、典型的なファミリー登山の山だ。
湖畔からの赤城山登山コース。(カシミール3Dで作成)
湖畔からの赤城山登山コース。(カシミール3Dで作成)
メンバーは学生の頃から登山に行っているいつもの仲間で、経験豊富とまではいかないが、それなりに山には慣れている。何度かアルプスに行ったこともあるし、赤城山も夏なら登ったことがある。

しかし雪山は未経験だったため、「3人で雪山ハイキングから挑戦してみよう」と、僕が誘うかたちで行くことになり、晴れた3月の朝に新宿駅を出発して、僕らは赤城山の入り口までたどり着いた。
入り口でアイゼンを靴に取りつけます
入り口でアイゼンを靴に取りつけます

雪山の装備「アイゼン」とは?

滑り止めのために取り付ける「爪」のこと。これは本格的なアイゼン
滑り止めのために取り付ける「爪」のこと。これは本格的なアイゼン
夏山に残る雪を「雪渓」と言うが、僕は何度か雪渓を小さいアイゼン(軽アイゼン)で越えたことがあったので、
「今回は雪山ハイキングだし軽アイゼンで大丈夫だと思う」と友達に伝えた結果、2人は軽アイゼンで山に入った。
最初の頃は確かに、軽アイゼンでも問題はなかった
最初の頃は確かに、軽アイゼンでも問題はなかった


後半になると、4本爪の軽アイゼンは無力に等しかった
後半になると、4本爪の軽アイゼンは無力に等しかった
とはいえこの日は晴れた3月の日。
積雪が凍りついていることもなく、ちょっと汗をかいたぐらいの運動量で、僕らはあっという間に尾根にたどり着いた。
眺めも最高! あとは尾根歩き、ほのぼの!
眺めも最高! あとは尾根歩き、ほのぼの!
尾根付近はフィールドも広く、他の登山客の中には「ヒップそり」と呼ばれるおもちゃのそりで斜面を滑って遊ぶ人もいて、それがとても楽しそうに僕の目に映った
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かくして、無事に予定通り山頂へと着いた僕らは「腹減ったー!」と叫びながら昼ごはんを作り、高校生のような勢いで山盛りのパスタを食べた。
雪をコンロで溶かしてパスタを茹でて……
雪をコンロで溶かしてパスタを茹でて……
あっという間に冷めるので、一気に食べる!
あっという間に冷めるので、一気に食べる!
 
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危険個所は読み取れたでしょうか




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そり遊びをやってみたい



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このあとも2回ほど試みてうまくいき、このとき僕はこの行為を「歩いて下山するよりも素早く降りられるかも」ぐらいに感じていた。(専門家の方に聞いたところ、アイゼンで木を傷つける行為は厳禁だそうです)
そして、これぐらい角度の斜面を下っていたときだと思う
そして、これぐらい角度の斜面を下っていたときだと思う
そんなことをやっていた直後である。
軽アイゼンのため最も下山に苦労していた友人が、ちょっと急なまっすぐの下山道でスリップしてしまい、滑落と言っていい勢いで滑り落ちて行った。
完全にコントロールを失った、水平に一回転しながらの、かなり青ざめる滑り方だった。
小さな叫び声のあと、あっという間に友人が遠くなっていった
小さな叫び声のあと、あっという間に友人が遠くなっていった
パーティーに緊張が走る。
さすがに焦った僕は、こう考えた。
・一刻も早くようすを見に行かねばならない
・さっきの滑り台方式の方が早く行けるかもしれない
リーダーとしての責任感と焦りが、この誤った判断を招いたのであろう。自分だけ本格アイゼンを装備しているという過信が、いつでも止まれると思わせたのかもしれない。
目の前で友人が滑落した斜面に、僕は腰をついて滑り込んでいった。

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「もしもし、救急ですか、赤城山で友人が骨折して……」
「もしもし、救急ですか、赤城山で友人が骨折して……」

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悪夢なのではないかと、何度も思った。
悪夢なのではないかと、何度も思った。
友人たちは精力的に周囲を確認し、さらに何度も救急と連絡して、レスキューの手配を進めてくれた。
現在地を伝えるのがなかなか難しく、かけ回って情報を集めてくれたが、けっきょく携帯のGPSを携帯会社から取得することで場所を特定してもらえた。
「救急ヘリが来るって」

響き渡るサイレンとプロペラ

後悔に苛まれながら、30分ぐらい経ったと思う。
救急車のサイレンが赤城山にひびきわたり、それとほぼ同時に空からヘリコプターのプロペラ音が聞こえて来た。
「本当にヘリが来てくれた!!」
「本当にヘリが来てくれた!!」

使




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処置の途中で靴を脱がされたときに見ると、絶対に人間のものではない形に足首が変形していた。



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姿




必死だったので、ベルトの形や位置はうろ覚えです
必死だったので、ベルトの形や位置はうろ覚えです





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そして病院に到着……

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それから5分ほどでヘリは群馬大学病院の屋上ヘリポートに着き、僕はストレッチャーに乗せられ、レスキュー隊の皆さんに別れを告げて、ああっという間に各種検査に回された。
これがそのときに撮ったレントゲン写真である。
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この記事は入院中の時間を利用して書きました

この記事は入院中の時間を利用して書きました
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