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低地ドイツやオランダ語圏では、16世紀半ばまで、魔女といえば、牛乳魔女のことを指していました。
牛乳魔女とは、牛乳魔術を使う魔女で、この魔女にかかると、我が家の牛から取れる牛乳の量はごく少ないものになるか、まったく取れなくなります。
命すら奪える魔術に対して、牛乳魔術とは、あまりに些細な感じがしますが、この地方での町に住みながら農業もやる兼業農家にとって、ミルクやそれから手作りするチーズは、自分の家で消費する他に、町で売って現金収入を得る貴重な手段でした。 彼らは農業と家畜を飼うことに加えて、町で雑貨や何かを売ることなど、一切合切で生活できるぎりぎりの収入を得ていました。 そんな中で牛乳の量が減ることは、その家族にとって致命的にもなりかねない事件でした。
牛が病気であったり、餌を十分与えられなかったり、牛乳の少なさを説明できる通常の理由が見当たらない、しかも事態は何年も、複数の牛について続いている、となると、彼らは原因を、森の賢者に尋ねます。 そして賢者は、牛乳魔術がかけられている可能性を示唆します。
賢者の指摘を後ろ盾に、彼らは、ある隣人を、牛乳魔女として告発します。 何故彼女なのか。それは彼女が、周囲の誰にもまして、チーズをつくるのが上手かったからです!
﹁誰かが得するためには誰かが損しなければならない﹂という総量一定の原則︵それとも感覚?︶を、素朴心理学︵フォーク・サイコロジー︶を参考にして、素朴経済学︵フォーク・エコノミクス︶の第一公理と呼ぶことにしましょう。 認知バイアスの研究では、ゼロサムヒューリスティック zero-sum heuristicと呼ばれるものです。
︵注︶ 経済学の名誉のために申し添えると、近代社会とそれに応じた経済学は、総量一定の原則の破れからはじまります。 たとえば10人による分業は、10人の個々ばらばらな生産以上のものをもたらします。 その他にも、規模の経済、比較優位、エッジワーズ・ボックス、パレート改善といった概念も、総量一定の原則の破れに関わるものです。
﹁総量一定の原則﹂は、魔女狩りが行われた近世ヨーロッパを通じて、広く信じられ、ごく自然なものとして捉えられていた常識的な考えでした。
この考えに従って、件の牛乳魔術を考えるとこうなります。 ある家の牛が平均よりも多くのミルクを出す、あるいはミルクを原料とするチーズが平均以上に多く︵またはうまく︶作っている。 その一方で、別のある家の牛は、ほんの少ししかミルクを出さず、また作っているチーズは失敗つづきである。 その理由は、誰かがミルクを不思議な仕方で奪って自分のものにしているからだ。。。
牛乳魔女がなぜ﹁女性﹂ばかりなのかは、当時の性分業の説明してくれます。 つまり、乳搾りや牛の世話、牛乳から乳製品をつくる仕事などはすべて、﹁女性の仕事﹂とされていたからです。 牛乳を扱う仕事がうまい/へたなのも、その成功失敗の責任を追わされるのも、女性でした。
魔女狩りは、民衆からの告発に始まることが大半でした。 そして魔女として訴えられたものに8割は女性だったと言われます。 よく知られるように、﹁魔女﹂︵として訴えられ裁かれたもの︶は女性ばかりではありませんでした。 しかし女性がこれほど多い理由は説明を必要とします。実のところ、魔女であると訴えられる方も、訴える方も、女性であることが多かったことも見逃せない点です。
魔女として訴えられる領域は、女性の性分業と大きく重なっています。 たとえば、19世紀のドイツの歴史家ミシュレは、魔女を﹁民衆の女医﹂として、正規医療を受けることができたのは人口全体のほんの一部であった長い時代には、彼女たちが、人々に医療サービスを行う唯一の者たちであったと、しています。 またアメリカのフェミニスト研究者エーレンライクとイングリッシュは、﹁魔女とされた人々は女性医療師たちであり、魔女の集会とは、女性医療師たちによる情報交換の場であった﹂と考え、﹁魔女狩りとは世俗権力や教会の指導者たる男性たちによる女性医療師への大規模な弾圧であった﹂という説を唱えました。
しかし﹁女性医療家﹂という独立した存在を想定する前に、病人の看護・看病自体が︵牛の世話などと同様︶﹁︵家庭内の︶女性の仕事﹂とされていたことを、見落とす訳にはいきません。 どの家の女性も母から子へ﹁我が家の処方箋﹂ともいうべき、今日なら民間療法にあたる﹁癒しの知恵﹂を受け継いでいました。 そして誰かの家で、﹁治る見込みのない病人﹂が快癒し、また別の家で、それほど重い病いでないと思われていた者が不幸にも二度と立つことができなくなった場合、︵村のコミュニティの様々な、人間関係の力学が働きますが︶、﹁誰かが得するためには誰かが損しなければならない﹂という総量一定の原則を人々は適用し、治癒魔術と疾患魔術を用いた者として、誰を不幸の原因の宛先にするかを、知ることができるという訳です。
産婆や知恵ある術師などが、従来信じられたようには、数多く魔女として裁かれた訳ではなかったことが、今日では分かっています。 魔術師は、﹁度重なる不幸﹂の原因の相談を受け、それに﹁魔術﹂というレッテルを貼って、誰が悪い魔術を施した魔女なのかをアドバイスして、間接的に民衆による魔女の告発をサポートしたりもしました。 つまり、彼女達は、﹁魔女﹂として訴えられるよりも、訴える側に立つことが多かったのです。
無論彼らとて、出産を成功させる力を持つことは、死産の責任を負うことと裏腹になっていること、﹁誰かが得するためには誰かが損しなければならない﹂という総量一定の原則が、自分の技にもかかっていることを、知らないではいられませんでした。 不幸で、普通でない死産が続いた場合、それに関した産婆や、その産婆をタイミングわるく尋ねた隣人が、﹁悪い魔術﹂を使ったかどで告発されることがありました。 告発は、そのお産に呼ばれなかった別の産婆が、告発する民衆のアドバイザーとして、あるいは告発者本人として、登場することもあったようです。
柱に突き立てた斧の柄を﹁しぼる﹂ことで、隣家の牛から牛乳を盗む魔女。
左上にやせ細った隣家の乳牛が描かれている。
命すら奪える魔術に対して、牛乳魔術とは、あまりに些細な感じがしますが、この地方での町に住みながら農業もやる兼業農家にとって、ミルクやそれから手作りするチーズは、自分の家で消費する他に、町で売って現金収入を得る貴重な手段でした。 彼らは農業と家畜を飼うことに加えて、町で雑貨や何かを売ることなど、一切合切で生活できるぎりぎりの収入を得ていました。 そんな中で牛乳の量が減ることは、その家族にとって致命的にもなりかねない事件でした。
牛が病気であったり、餌を十分与えられなかったり、牛乳の少なさを説明できる通常の理由が見当たらない、しかも事態は何年も、複数の牛について続いている、となると、彼らは原因を、森の賢者に尋ねます。 そして賢者は、牛乳魔術がかけられている可能性を示唆します。
賢者の指摘を後ろ盾に、彼らは、ある隣人を、牛乳魔女として告発します。 何故彼女なのか。それは彼女が、周囲の誰にもまして、チーズをつくるのが上手かったからです!
﹁誰かが得するためには誰かが損しなければならない﹂という総量一定の原則︵それとも感覚?︶を、素朴心理学︵フォーク・サイコロジー︶を参考にして、素朴経済学︵フォーク・エコノミクス︶の第一公理と呼ぶことにしましょう。 認知バイアスの研究では、ゼロサムヒューリスティック zero-sum heuristicと呼ばれるものです。
︵注︶ 経済学の名誉のために申し添えると、近代社会とそれに応じた経済学は、総量一定の原則の破れからはじまります。 たとえば10人による分業は、10人の個々ばらばらな生産以上のものをもたらします。 その他にも、規模の経済、比較優位、エッジワーズ・ボックス、パレート改善といった概念も、総量一定の原則の破れに関わるものです。
﹁総量一定の原則﹂は、魔女狩りが行われた近世ヨーロッパを通じて、広く信じられ、ごく自然なものとして捉えられていた常識的な考えでした。
この考えに従って、件の牛乳魔術を考えるとこうなります。 ある家の牛が平均よりも多くのミルクを出す、あるいはミルクを原料とするチーズが平均以上に多く︵またはうまく︶作っている。 その一方で、別のある家の牛は、ほんの少ししかミルクを出さず、また作っているチーズは失敗つづきである。 その理由は、誰かがミルクを不思議な仕方で奪って自分のものにしているからだ。。。
牛乳魔女がなぜ﹁女性﹂ばかりなのかは、当時の性分業の説明してくれます。 つまり、乳搾りや牛の世話、牛乳から乳製品をつくる仕事などはすべて、﹁女性の仕事﹂とされていたからです。 牛乳を扱う仕事がうまい/へたなのも、その成功失敗の責任を追わされるのも、女性でした。
魔女狩りは、民衆からの告発に始まることが大半でした。 そして魔女として訴えられたものに8割は女性だったと言われます。 よく知られるように、﹁魔女﹂︵として訴えられ裁かれたもの︶は女性ばかりではありませんでした。 しかし女性がこれほど多い理由は説明を必要とします。実のところ、魔女であると訴えられる方も、訴える方も、女性であることが多かったことも見逃せない点です。
魔女として訴えられる領域は、女性の性分業と大きく重なっています。 たとえば、19世紀のドイツの歴史家ミシュレは、魔女を﹁民衆の女医﹂として、正規医療を受けることができたのは人口全体のほんの一部であった長い時代には、彼女たちが、人々に医療サービスを行う唯一の者たちであったと、しています。 またアメリカのフェミニスト研究者エーレンライクとイングリッシュは、﹁魔女とされた人々は女性医療師たちであり、魔女の集会とは、女性医療師たちによる情報交換の場であった﹂と考え、﹁魔女狩りとは世俗権力や教会の指導者たる男性たちによる女性医療師への大規模な弾圧であった﹂という説を唱えました。
しかし﹁女性医療家﹂という独立した存在を想定する前に、病人の看護・看病自体が︵牛の世話などと同様︶﹁︵家庭内の︶女性の仕事﹂とされていたことを、見落とす訳にはいきません。 どの家の女性も母から子へ﹁我が家の処方箋﹂ともいうべき、今日なら民間療法にあたる﹁癒しの知恵﹂を受け継いでいました。 そして誰かの家で、﹁治る見込みのない病人﹂が快癒し、また別の家で、それほど重い病いでないと思われていた者が不幸にも二度と立つことができなくなった場合、︵村のコミュニティの様々な、人間関係の力学が働きますが︶、﹁誰かが得するためには誰かが損しなければならない﹂という総量一定の原則を人々は適用し、治癒魔術と疾患魔術を用いた者として、誰を不幸の原因の宛先にするかを、知ることができるという訳です。
産婆や知恵ある術師などが、従来信じられたようには、数多く魔女として裁かれた訳ではなかったことが、今日では分かっています。 魔術師は、﹁度重なる不幸﹂の原因の相談を受け、それに﹁魔術﹂というレッテルを貼って、誰が悪い魔術を施した魔女なのかをアドバイスして、間接的に民衆による魔女の告発をサポートしたりもしました。 つまり、彼女達は、﹁魔女﹂として訴えられるよりも、訴える側に立つことが多かったのです。
無論彼らとて、出産を成功させる力を持つことは、死産の責任を負うことと裏腹になっていること、﹁誰かが得するためには誰かが損しなければならない﹂という総量一定の原則が、自分の技にもかかっていることを、知らないではいられませんでした。 不幸で、普通でない死産が続いた場合、それに関した産婆や、その産婆をタイミングわるく尋ねた隣人が、﹁悪い魔術﹂を使ったかどで告発されることがありました。 告発は、そのお産に呼ばれなかった別の産婆が、告発する民衆のアドバイザーとして、あるいは告発者本人として、登場することもあったようです。
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1970年代以降30年間ほど、魔女狩り研究は非常に活発で、様々な分野からの参戦、資料の掘り起こしと読み直し、次々と提起された大胆な仮説など、19世紀につくられた魔女狩りについてのステレオタイプをほとんど一掃した︵学問の世界ではね︶。今では、学生向けに重要な一次資料を集めたアンソロジーや、これまでの主だった研究をまとめたリーディングスなども編集されている。ここ30年の研究を反映した、平易な概説書や教科書も何冊か出版されている。すごくうらやましい状態だ。
いくつかトピックをあげておくと、 ︵1︶魔女狩り、魔女裁判にかけられたのは女性ばかりでなく男性もいたこと︵地域によっては、そのほとんどが男性である場合すらあったこと︶
︵2︶魔女裁判は、当初︵12世紀頃︶はもともと民衆の自治手段のひとつである民衆裁判で行われた。教会の異端審問が関わるようになってきたのは15世紀に入ってからであること。悪名たかき﹃魔女に与える鉄槌﹄(Malleus Maleficarum,1487年)を書いたドミニコ会の異端審問官は実は熱心なマリア崇拝者であり、その反動で現実女性への反感に導かれて﹁魔女﹂のイメージを固めたらしいこと。
︵3︶魔女として裁かれ処刑されたのは、ミシュレやマーガレット・マリが信じたような﹁キリスト教の陰で生き残っていた古代宗教を信じていた人々﹂ではなく、実際にはほとんどがキリスト教徒だったこと。また魔女裁判の被告は,被告のほとんどが財産をもたない貧しい人々であり、知恵ある魔女そのものというよりも、そのクライエントにあたるような人たちだったこと。
︵4︶魔女狩りが抱く魔女のイメージは、﹁群れる魔女﹂であり、これはカタリ派などの異端集団へ向けた迫害を敷衍したものであり、さらに言えば、迫害される立場であった初期キリスト教の受けた経験が反映しているらしいこと。
︵5︶﹁群れる﹂というイメージを補強するために、貧しい彼女達の移動手段として﹁空飛ぶ魔女﹂のイメージを迫害側が作り出したこと。そのため、魔女として裁かれた人たちは、拷問を受けるまでは﹁魔女が空を飛ぶ﹂なんてことは知らず、もちろん供述もしていないこと。
︵6︶一方、森に孤独に暮らす魔女のイメージは、19世紀のグリム兄弟が収集した民話集などをモチーフとしているおり、かなり新しいものであるらしいこと。
○教科書 ・Brian Levack (2006). The Witch-Hunt in Early Modern Europe ,3rd (London and New York: Longman) こちらは、かなり詳しく網羅的な教科書。もう第3版まで出ています。
・Geoffrey Scarre ︵1987︶. Witchcraft and Magic in Sixteenth-And Seventeenth-Century Europe(Studies in European History) こちらはさっきもあげたけれど邦訳がある、コンパクトな入門書。巻末の解説付きの文献リストがとても便利です︵邦訳されているものも結構あるのがわかります︶。日本語で読めるのが最大のメリットです。今時の魔女狩りの勉強はこの本から始めましょう︵そして巻末の文献リストで邦訳のあるものから片付けていきましょう。K.トマス﹃宗教と魔術の衰退﹄、N.コーン﹃魔女狩りの社会史﹄あたりは必須︶。ちなみに岩波新書の﹃魔女狩り﹄はもう﹁過去﹂の本です︵おっと︶。 ・︵邦訳︶ ジェフリ・スカール, ジョン・カロウ [著] ; 小泉徹訳.﹃魔女狩り (ヨーロッパ史入門シリーズ) ﹄︵岩波書店, 2004).
○一次資料を集めたアンソロジー ・Alan C. Kors and Edward Peters (eds).︵1972︶ Witchcraft in Europe 1100-1700 (Philadelphia: University of Pennsylvania Press). これを増補改訂して5世紀以降の一次資料も収集した下の本が出てる。 ・Alan C. Kors and Edward Peters (eds). ︵2000︶. Witchcraft in Europe, 400-1700: A Documentary History (Middle AgesSeries). 他には ・Brian Levack(2003).The Witchcraft Sourcebook (Routledge).
○主要な研究をまとめたリーディングス ・ Jonathan Barry, Marianne Hester, and Gareth Roberts (eds.) (1996). Witchcraft in Early Modern Europe: Studies in Culture and Belief (Cambridge).
次のは、主として人類学者による貢献を集めたもの。 ・Max Marwick ed. (1982). Witchcraft and Sorcery: Selected Readings, 2nd ed (Harmondsworth: Penguin).以下は目次。 他に ・Darren Oldridge ed. (2008),The Witchcraft Reader, 2ed. (Routledge Readers in History).
○その他 ・Ankarloo, Clark (eds.) (1999-2002). Witchcraft and Magic in Europe, Volume 1-6. (Philadelphia: University of Pennsylvania Press). 古代から現在︵20世紀︶までのヨーロッパのWitchcraft と Magicについて扱った6巻本の叢書。1巻あたり数篇の長い研究論文で構成された本格的シリーズ。
いくつかトピックをあげておくと、 ︵1︶魔女狩り、魔女裁判にかけられたのは女性ばかりでなく男性もいたこと︵地域によっては、そのほとんどが男性である場合すらあったこと︶
︵2︶魔女裁判は、当初︵12世紀頃︶はもともと民衆の自治手段のひとつである民衆裁判で行われた。教会の異端審問が関わるようになってきたのは15世紀に入ってからであること。悪名たかき﹃魔女に与える鉄槌﹄(Malleus Maleficarum,1487年)を書いたドミニコ会の異端審問官は実は熱心なマリア崇拝者であり、その反動で現実女性への反感に導かれて﹁魔女﹂のイメージを固めたらしいこと。
︵3︶魔女として裁かれ処刑されたのは、ミシュレやマーガレット・マリが信じたような﹁キリスト教の陰で生き残っていた古代宗教を信じていた人々﹂ではなく、実際にはほとんどがキリスト教徒だったこと。また魔女裁判の被告は,被告のほとんどが財産をもたない貧しい人々であり、知恵ある魔女そのものというよりも、そのクライエントにあたるような人たちだったこと。
︵4︶魔女狩りが抱く魔女のイメージは、﹁群れる魔女﹂であり、これはカタリ派などの異端集団へ向けた迫害を敷衍したものであり、さらに言えば、迫害される立場であった初期キリスト教の受けた経験が反映しているらしいこと。
︵5︶﹁群れる﹂というイメージを補強するために、貧しい彼女達の移動手段として﹁空飛ぶ魔女﹂のイメージを迫害側が作り出したこと。そのため、魔女として裁かれた人たちは、拷問を受けるまでは﹁魔女が空を飛ぶ﹂なんてことは知らず、もちろん供述もしていないこと。
︵6︶一方、森に孤独に暮らす魔女のイメージは、19世紀のグリム兄弟が収集した民話集などをモチーフとしているおり、かなり新しいものであるらしいこと。
○教科書 ・Brian Levack (2006). The Witch-Hunt in Early Modern Europe ,3rd (London and New York: Longman) こちらは、かなり詳しく網羅的な教科書。もう第3版まで出ています。
・Geoffrey Scarre ︵1987︶. Witchcraft and Magic in Sixteenth-And Seventeenth-Century Europe(Studies in European History) こちらはさっきもあげたけれど邦訳がある、コンパクトな入門書。巻末の解説付きの文献リストがとても便利です︵邦訳されているものも結構あるのがわかります︶。日本語で読めるのが最大のメリットです。今時の魔女狩りの勉強はこの本から始めましょう︵そして巻末の文献リストで邦訳のあるものから片付けていきましょう。K.トマス﹃宗教と魔術の衰退﹄、N.コーン﹃魔女狩りの社会史﹄あたりは必須︶。ちなみに岩波新書の﹃魔女狩り﹄はもう﹁過去﹂の本です︵おっと︶。 ・︵邦訳︶ ジェフリ・スカール, ジョン・カロウ [著] ; 小泉徹訳.﹃魔女狩り (ヨーロッパ史入門シリーズ) ﹄︵岩波書店, 2004).
○一次資料を集めたアンソロジー ・Alan C. Kors and Edward Peters (eds).︵1972︶ Witchcraft in Europe 1100-1700 (Philadelphia: University of Pennsylvania Press). これを増補改訂して5世紀以降の一次資料も収集した下の本が出てる。 ・Alan C. Kors and Edward Peters (eds). ︵2000︶. Witchcraft in Europe, 400-1700: A Documentary History (Middle AgesSeries). 他には ・Brian Levack(2003).The Witchcraft Sourcebook (Routledge).
○主要な研究をまとめたリーディングス ・ Jonathan Barry, Marianne Hester, and Gareth Roberts (eds.) (1996). Witchcraft in Early Modern Europe: Studies in Culture and Belief (Cambridge).
次のは、主として人類学者による貢献を集めたもの。 ・Max Marwick ed. (1982). Witchcraft and Sorcery: Selected Readings, 2nd ed (Harmondsworth: Penguin).以下は目次。 他に ・Darren Oldridge ed. (2008),The Witchcraft Reader, 2ed. (Routledge Readers in History).
○その他 ・Ankarloo, Clark (eds.) (1999-2002). Witchcraft and Magic in Europe, Volume 1-6. (Philadelphia: University of Pennsylvania Press). 古代から現在︵20世紀︶までのヨーロッパのWitchcraft と Magicについて扱った6巻本の叢書。1巻あたり数篇の長い研究論文で構成された本格的シリーズ。
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