物語
ふたりの女児をもち、
跡とりとなる男児の誕生を願っていた侯爵夫人は、
三人目の出産にあたって命の危険にさらされた。
カリーナは三女のエーを出産するが、
それ以降子どもを生めない身体となる。
夫のランドルは愛人をつくり、
跡とりとなる男児をもうけると、
本邸内にふたりを住まわせた。
怒りと悲しみ、嫉妬にかられたカリーナは
自身の苦しみの原因はエーにあると考え、
言葉と暴力で彼女に虐待の限りを尽くす。
また、生まれたばかりのエーを殺そうとしていた
カリーナを見たふたりの娘は
母同様にひどい虐待を加えた。
満足な食事を与えず、
屋敷の外に出すこともなく育てられたエーは、
発育不良なうえ、
言葉もうまく発せられないまま14歳を迎える。
王国では毎年、14歳の少女を大聖堂に集めて
﹁聖女選定の儀﹂を行う習慣がある。
国民は娘が聖女に選ばれることを
願うのが通常だった。
外部にエーの存在を隠してきたカリーナは、
彼女を表舞台へ出すことは不本意ながら、
虐待による顔の傷跡を目立たぬようつくろい、
家族総出で大聖堂へ連れてゆく。
大聖堂に集まった少女たちが
聖女に選定されることなく儀式は進み、
エーが聖女と選定された。
カリーナは儀式を主導する王太子へ、
自身を苦しめてきたエーは
聖女なわけがないと詰め寄る。
不敬なだけでなく、
親としての素養が疑われる発言を受けた
王太子はエーの生育環境へ思いを巡らせた。
カリーナから自分以外の言葉に反応しないよう
事前に言い含められていたエーは、
王太子からの言葉に反応を示さない。
王太子はエーが彼の言うことを聞くよう、
カリーナに指示を出させ、
はじめてエーは王太子の言葉に従った。
王太子に家族への言葉をと促されたエーは、
母や姉たちに日ごろから言わされていた
理不尽な謝罪の言葉を機械的に発する。
列席していた者たちも
ことの重大さを理解するなか、
家族への憤りをこらえる
王太子はエーをその場から遠ざけた。
また、エーをとりまく環境を調査すべく、
王太子はカリーナはじめ、
家族を王城へ呼びつけて
事情を聴取することを決める。