事案発生を招いたスタートアップの勤務体制
このたび、私が代表をつとめる株式会社 Authlete︵オースリート︶︵東京都千代田区大手町︶において、その特殊な勤務体制を起因とする事案が発生しました。当該社員の方、および御家族の皆様に深くお詫び申し上げます。当該事案の調査結果・考察・対策をここに公表し、再発防止につとめます。
1. 事案内容
転職後1ヶ月ほど過ぎた頃、社員が﹁社会人としてちゃんと会社に行きなさい﹂と奥様から叱られる事案が発生。当該社員による﹁雨降ってるからみんな会社に行かずに自宅で作業してると思う﹂という、弊社の日常風景の説明も奥様の理解を得られるには至らず、﹁そんな会社他にない﹂と、会社の行く末について心配を抱かせることになってしまった。2. 直接の原因
コアタイムも強制出社日も無い自由過ぎる勤務体制。オフィスに用事が無ければ出社する必要がないため、在宅勤務を誘発してしまう。3. 実態調査
事案報告を受けた翌日︵天気=雨︶、会社代表が午後2時頃出社したところ、出社していたメンバーは全体の半数に達していなかった。当該社員も出社していなかった。出社していないどのメンバーからも、﹁今日は出社しません﹂という旨の連絡は一切なかった。4. 原因︵自由勤務体制︶の成立要件
4.1. コミュニケーション手段の充実
Slack や WhatsApp、Facebook メッセンジャー、電子メールなどのツールにより、場所と時間を選ばずに、社内外のコミュニケーションが取れるようになっている。4.2. 開発場所を選ばない製品
主要製品がソフトウェアであるため、ノートパソコンさえあれば作業場所を選ばずに製品開発をおこなうことができる。4.3. マイクロマネージメント不要
何も指示を出されなくてもやるべき仕事を自分で考えて自主的に取り組むタイプのプロフェッショナルのみで会社が構成されており、マイクロマネージメントが不要なため、出退勤時刻や労働時間を管理・監視する必要性がない。5. マイクロマネージメントに関する考察
原因︵自由勤務体制︶の成立要件のうち、﹁マイクロマネージメント不要﹂が最も成立しにくいと思われるので、この要件ついて考察をおこなう。5.1. 製品の特性
少数精鋭で開発に取り組んだほうがよい製品もあれば、人員を多く投入したほうがよい製品もある。 後者の場合、新卒などの未経験者でも、数週間〜数ヶ月程度の教育を施すことにより、十分に開発現場の戦力となりうる。しかし、代わりに、教育や作業指示、進捗管理などのマイクロマネージメントが必要になる。 製品の機能数が多かったり、UI/UX の細かい調整が重要だったりする場合、人員を投入したほうが有効である。概して、toC サービス︵to Consumer‥一般消費者を対象とするサービス︶ではこの傾向が高い。弊社の場合
弊社の製品は toB サービス︵to Business‥企業を対象とするサービス︶であり、機能は少ないものの技術的に難易度が高いため、少数のプロフェッショナルによる開発が適している。プロフェッショナルに対してマイクロマネージメントは不要である。5.2. 失敗に対する叱責
業務上の失敗に対する叱責を強くすれば、マイクロマネージメントと意思決定速度低下は一気に進む。部下は叱責を恐れ、何をするにも逐一上司に承認を求めてくるようになり、自主的に考えて勝手に動くようなことはしなくなる。これが極端になると、言われたこと以外しなくなる。弊社の場合
自主的に考えて実行したことについては、例え失敗しても、一切叱責しない。失敗を自覚して次に活かすことができるプロフェッショナルに対して、一々叱責する必要はない。5.3. 管理のための規則
作業指示を出さないと働かない︵うまいことサボる︶メンバーの扱いをどうするか。対策として、定期的な作業報告書の提出など、管理のための規則を新たに導入することが考えられる。しかし、サボらせないようにするための管理規則は、他のサボらない人達にとっては不要であり、管理者側の負担も大きい。 問題行動を起こすメンバーに合わせて管理規則を次々と導入していくか否かは、マイクロマネージメントに突き進むか否かの岐路となる。弊社の場合
かなり悩んだが、週報提出制度の導入を見送り、代わりに、該当メンバーに退場してもらうことにした。 注1‥奥様に叱られた方とは別のメンバーです。 注2‥法人対法人の契約下でプロジェクトに参加されていたメンバーなので、﹁Authlete 社の社員を解雇した﹂という話ではなく、﹁法人間契約を延長しなかった﹂という話です。大きな単位の独立した仕事をお願いし、指示系統下に入ってもらうことなく独立して半年以上動いてもらっていましたが︵つまり偽装請負の類ではありません︶、期間に比べて余りにも成果物が乏しく、﹁マイクロマネージメントがないのをいいことにうまいことサボっていた﹂と解釈しないと説明がつかないと判断したので、契約を延長しませんでした。返金請求もできなくはない話でしたが、人を見る目がなかった不明と、適切なタイミングでの進捗確認を怠った責が自分にありますので、勉強料と考え、円満に契約終了としました。伝え聞くところでは、先方は私に謝りたいと思っているとのことですが、私自身は気にしていないです。ビジネスを進めていく過程で、無駄やミスマッチは少なからず発生するので、そのための金銭的・時間的・心理的バッファーは用意してあり、許容範囲内だったからです。6. 自由勤務体制の実績
自由勤務体制に加え、開発拠点も日本・英国・米国と物理的に分散する中、高度な技術力を要する Financial API︵FAPI︶の開発を完了させてしまった。![f:id:TakahikoKawasaki:20180618022938p:plain f:id:TakahikoKawasaki:20180618022938p:plain](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/T/TakahikoKawasaki/20180618/20180618022938.png)