リストラなう!その1 リストラが始まりました
おひさしぶりですみなさん。
ブログタイトルを変えることにしました。﹁どんじりのブログ、たぬきち日記﹂から、心機一転、時代の最先端をゆく﹁リストラなう!﹂日記に変身! 我ながら予想もしない、自分でも驚いた、大胆な転進です。
私ことたぬきちは、都内のわりと大手と思われる出版社で働いています。
業界の売り上げ順位では現在のところ10位…くらいかな? もうちょい下になってるかな?
書籍も雑誌もやっている、一応﹁総合出版社﹂です。
たぬきちはバブル時代の入社組で、もう20年働いています。編集、宣伝、販売といったセクションを経験しました。
このまま普通に年を取り、営業マンとして馬齢を重ね、定年を迎えるものと思っていました。
ところが、この3月の中旬、会社は﹁このままでは立ちゆかないので、社員を減らします。優遇措置を設けたので希望退職を募ります﹂と宣言しました。
リストラが始まったのです。
これを書いてる時点では、あくまでも﹁早期退職の臨時措置を始めました﹂という段階です。まだ再就職支援の説明会やら個別面談の段階で、正式な応募期間ではありません。
早期退職の概要は、編集を含む全部署の50歳以上、営業・管理部門の40歳以上を対象に、割増退職金付きで退職を募る。応募者は5月末日で退職。単純に対象になる者は120名。うち50名退職が目標、というものです。
リストラの主旨は、パフォーマンスが落ちた高給取りの高齢社員を減らし、増えすぎた営業・管理部門をスリム化してランニングコストを減らす。一方でコンテンツ開発力は維持したいので若手の編集は減らさない……というものだと理解しています。
●﹁早期退職優遇措置﹂の概要
退職金の割増は年齢で段階的に変わっています。勤続年数の短い40代は正規の退職金も少ないので、割増額も多い、というふうに﹁下になるほど臨時支給額を増やして﹂います。この結果、全部の年代でほぼ同じくらいの支給額となっているようです。
若い層は不満を持ちやすいし、あと40代は住宅ローンや教育費がいちばんかかる年代なので、辞めやすいように支給額を厚めにしたのでしょう。会社の温情を感じます。
あと、会社都合離職になるので正規退職金の部分も割増になります。雇用保険も11か月、すぐに支給される。再就職斡旋業者と契約したので再就職の面倒もみる…と至れり尽くせりです。
実際至れり尽くせりの条件で、これが発表された2週間前には快哉を叫んだ対象社員もいました。だが実際に個別面談が始まり、対象者を会議室に集めて再就職支援説明会が行われる頃、社内では﹁誰が辞める?﹂﹁自分は残れるの?﹂といった疑問や不安が横溢し始めました。
社内のあちこちでひそひそ話をする人たちが。僕ももちろんその一人なのですが。すごい実力があって﹁その部署はその人がいるから成立してる﹂なんて言われる社員が、深い溜め息を何度もついたりしています。突然猛烈に働き始める人とか、いきなり会社に来なくなる人も現れました。
●﹁辞める﹂と決めてしまったので
僕も、対象になってる者同士で2週間ひそひそと密議し、考えました。辞めた後の自分の可能性。残って働き続ける場合の未来。
結果、先のアテはまったくないけど、辞めることにしました。
もういいよ。長いことお世話になりました。これからは自分の足で歩いていきます、と。
辞めると決めてからは、食事は美味いし、朝早く目覚めてウォーキングするのも楽しいし、音楽も素敵に聞こえます。
考えてみると、僕が好んで聞いてきた音楽のうち、音楽家が﹁会社員﹂である場合はものすごく少ないですね。音楽家なんてみんなフリー、自由業、野良犬です。ああ、もうじき同じ立場になるよ僕も。と、スプリングスティーンやフーやスティーブ・ライヒやマールタ・セベスチェーンを聞きながら思ったりします︵彼らと僕とでは才能とか努力において非常な差があるわけですが、それはこの際無視します。キモチキモチ︶。
で、反対に、社内は日一日と雰囲気が悪くなってきました。今日も再就職支援説明会があったのですが、﹁有資格者は全員参加﹂を命じられたらしく、先週まで﹁私は辞めないからそんなの出ないよ﹂と言ってた人が説明会に行って、暗い顔で帰ってきます。僕ももちろん出たのですが、どうにも明るい気持ちになれない説明会でした。
この﹁再就職支援﹂というもののビジネスモデルがそもそも、クライアントである我々を暗い気持ちにさせるんですね。これは面白いので後日掘り下げて書きたいです。
●出版業界が陥った三つの苦境
いま、出版界は揺れています。
一つには、AmazonのKindleが日本語のサービスを始めようとしていること。来月はAppleのiPadが発売されること。これで日本でも電子書籍の市場が外資主導で立ちあがることになります。
実際のところは両社ともまだまだ日本語電子書籍を実用化してるわけじゃないのですが、多くの日本の出版社の経営者は﹁Kindleという黒船の来襲﹂という認識です。まだ本格的に来てるわけじゃないじゃん、と突っ込んでも、経営者たちは昔の幕閣よりもおたおたしています。
もう一つが、広告費の減少です。昨年は新聞への出稿量がネットへの出稿に抜かれたそうですね︵金額ベースで︶。ところが雑誌の広告なんてずーっと前から減り続けてて、昨年は対前年比75%だって言うじゃありませんか。今年はどうなるんでしょ。
三つめ、書籍が売れないよ不況。とくに高額な四六判文芸書が売れません。村上春樹とか東野圭吾は売れるんですけど、他は…けっこう有名な著者の本でも、1万部売るのが難しいです。本体1800円の本を1万部刷ると、印税は180万円です。半年以上かけた仕事が180万円にしかならないとすると、作家だってワーキングプアってことになりますよね。
ところが、出版社はもっとプアになっているのです。なぜなら、1万部刷った本を、新刊時に9千部、書店に送り込んだとしましょう。9千部分の売り上げがたって、現金収入になります。ところが1カ月もすると、その半分くらいがばんばん返本になって帰ってくるのです。返本をもらったときは、出版社が逆に書店・取次にお金を払わなければなりません。この支払い、超大変。いくら新刊を出しても、前月や前々月の新刊が返ってくると、売り上げが消えてしまいます。まさに﹁資金繰りが苦しい﹂…日本の文化を背負って立ってるような顔をした出版社が、そこらの町工場のお父さんと同じ問題であたふたしているのです。
●混乱を嫌がることなく、愛していきたい
先日、﹁週刊ダイヤモンド﹂が電子出版・出版流通の特集を組もうとして、土壇場で中止、企画差し替えになったそうですね。噂では、銀行の広報出身の社長が、書店・取次からの批難をおそれて、独断で中止させた、とか。ほんとかどうかわかりませんが、ありそうな話ではあります︵http://portside-yokohama.jp/headlines/weeklydiamond.html︶。
僕が働いてる会社ではこんな企画最初から通らなかったろうな。発案するやつすらいるかどうか。ダイヤモンド、偉いです。
以前に販売会議の席上で﹁こういった企画の本はもっとAmazonに出庫したほうが仕上がり率が良くなるのでは﹂という発言があったところ、﹁それはいけない。もっとリアル書店を大事にしないと﹂と真顔で応じた古参社員がいました。ちょっと話がずれてると思うのですが、古くからの版元営業はホントにこんな発想をするのです。途中から営業になった僕にはにわかには信じられませんでしたが。
まあその、雑誌の特集が変な圧力で没になったり、なりふり構わぬ人減らしが起きてるのは、全部、出版という古い業界が巨大な荒波に揉まれ、あえいでいることの現れです。僕は荒波に翻弄される木の葉の一枚です。
でも、荒波が起きてる状況は面白いです。思わぬ、それ以前は想像すらしなかったことが起きるからです。
僕の尊敬するブロガー﹁Chikirin﹂さんは﹁混乱lover﹂を自称しています。混乱状態を愛し、楽しむこと。僕も、それを実践してみようと思います。
これまで、わりと放置気味だったこのブログですが、今日からリストラが完了する5月末まで、なるべくがんばってマメに、この混乱状況のレポを続けていこうと思いますので、どうかお楽しみに。