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葛西善蔵(1887-1928・明治20年-昭和3年)
昭和3年7月23日歿 42歳 (藝術院善巧酒仙居士) 鎌倉・建長寺回春院




ぽつねんと机の前に坐り、あれやこれやと考へて、思ひふさぐ時、目分を慰めてくれ、思ひを引立ててくれるものは、ザラな顔見知合ひの人間よりか、窓の外の樹木---殊にこのごろの椎の木の日を浴び、光りに戯れてゐるやうな若葉ほど、自分の胸に安らかさとカを与へてくれるものはない。鎌倉行き、売る、売り物、三題話のやうな各々の生活---土地を売つた以上は郷里の妻子のところに帰るほかない。人間墳墓の地を忘れてはならない。椎の若葉に光りあれ、僕は何処に光りと熱とを求めてさまよふべきなんだらうか。我輩の葉は最早朽ちかけてゐるのだが、親愛なる椎の若葉よ、君の光りの幾部分かを僕に恵め。

(椎の若葉)



西3723


 宿


4沿西