[筆者はカナダ上級免許(Canadian Class-1 instrumented-rated pilot for multi-engine planes)所持者として20年の経験をもつパイロット。以下は、同氏のGoogle+に掲載されていた文章をWIRED USが許可を得て公開したもの]
この左折が、今回の鍵だ。ザハリ・アフマド・シャー機長は、18,000時間の飛行経験をもつ熟練した上級パイロットだ。われわれのような古参パイロットは、飛行中には常に、緊急事態に備えて、最も近い避難空港を意識し続けるよう訓練されている。
シャー機長は、なんらかの緊急事態が生じた結果、マレーシア北部のランカウイ島にあるランカウイ国際空港への直行ルートをとったと筆者は考えている。海上からアプローチ可能で、障害物のない3,962mの滑走路がある空港だ。「Google Earth」で見るとここだ。
機長は、クアラルンプールへは引き返さなかった。約2,440mの山脈を超えなければならないとわかっていたからだ。
火災が生じてトランスポンダーと通信が喪失したという仮説は、筆者にとっては完全につじつまが合う。最も可能性が高いのは、漏電による火災だ。火事の場合の初期対応は、メインバス(主要な回路)を遮断してから、回路をひとつづつ回復させ、問題の回路を分離することだ。
主要な回路が遮断されると、トランスポンダー等も停止される。パイロットたちは昔から、このような状況では、「Aviate、Navigate、Communicate(飛行、操縦、最後に連絡)」という優先順位で行動せよと教えられている。
パイロットが航空管制に送信した最後の言葉「おやすみ」というのは、管制に対して通常行われる挨拶だ。つまり彼らはこのとき、異常に気がついていなかったと見られる。しかしその通信の前に、すでにACARS(運航情報を自動的に提供するシステム)が停止していたらしい。ACARSが意図的に遮断されたという説もあるが、指摘されているとおり、ACARSを動作不能にすることは簡単ではない。この点により、手動でシステムが切られたのではなく、電気機器の問題や漏電による火災という可能性の方がより高い、と筆者は考える。パイロットたちはACARSの停止に気がついていなかったと思われるのだ。