日本のクリエイティヴは「製造業」たりえるか?:『シドニアの騎士』にみるCGスタジオの起死回生

 CGCEO
日本のクリエイティヴは「製造業」たりえるか?:『シドニアの騎士』にみるCGスタジオの起死回生
PHOTOGRAPHS BY ASSAWSSIN


「CREATIVE HACK AWARD 2017」受賞作品、決定!

[437](https://hack.wired.jp/ja/winners/)

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制作を手がけるのは、日本でも古参となるデジタルアニメーションスタジオ「ポリゴン・ピクチュアズ」。その代表取締役CEO・塩田周三が、企画誕生のプロセスを明かしてくれた。


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『シドニアの騎士』第7話より。/『シドニアの騎士』©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
『シドニアの騎士』第6話より。作品を象徴する名場面、ロボット同士が手を繋いで大編隊を形成する「掌位(しょうい)」。各機が一丸となり巨大な敵・奇居子(ガウナ)に立ち向かう描写は、300名体制で膨大な映像制作に挑むポリゴン・ピクチュアズの戦い方そのものだ。/『シドニアの騎士』©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

だが『シドニアの騎士』を映像化するとなれば、美麗なグラフィックと凄絶なバトルシーンで視聴者を圧倒しなければならない。その点、テレビアニメの「30分・毎週・3カ月で12本放送」という枠組みは、制作現場にとって相当にストレスフルなはずだ。まず物量が多い。アニメ業界では「放送日の当日朝に納品した」などという、青息吐息の武勇伝を耳にすることもしばしばある。同業者たちはシドニアのクオリティが破綻しないか、鵜の目鷹の目で見守っていることだろう。そう問いかけると、塩田は苦笑する。


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一度抱えてしまった大量の人材と機材、整えた量産体制。それが強みと信じる塩田は、長尺の作品にターゲットを絞った営業を続けた。

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キャラクター版権ビジネスとして成功を収めた『イワトビペンギン ロッキーXホッパー』だが、テレビアニメ化は叶わなかった/『イワトビペンギン ロッキーXホッパー』©POLYGON PICTURES

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映像業界で比較的単価が高い仕事といえば、CMと相場は決まっている。だが塩田らは広告業界にも希望を見出せなかった。15秒程度の短い映像制作では、自社のワークフローが活かせない。しかも短い尺を得意とする、少数精鋭のCGクリエイター集団が台頭し始めた。ソフトウェアとパソコンの低価格化が追い風となり、メディアはこぞって「一人プロダクションの時代が到来した」と騒いだ。


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「アメリカの映像業界って人材が流動的なんです。『プーさんといっしょ』で一緒に仕事をした監督がディズニーをやめて、ハズブロ・スタジオ(大手玩具メーカー・ハズブロの系列会社で、トランスフォーマーのアニメシリーズをてがける)に移籍した。そのおかげで『トランスフォーマー プライム』が実現する。一方でディズニーからは『トロン:ライジング』の依頼があり…という、いい流れが生まれた」


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人気キャラクター「くまのプーさん」をCGアニメ化したテレビ作品『プーさんといっしょ』。1本あたり22分、合計68本の大型受注だった。/『プーさんといっしょ』© Disney
『トランスフォーマー プライム』はエミー賞のアニメ部門で最優秀賞を受賞。続く『トロン:ライジング』『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』も数々の賞に輝いた。/『トランスフォーマー プライム』© 2014 Hub Television Networks, LLC. All Rights Reserved.
太陽系滅亡から1000年——人類の命運を賭けて航行する播種船シドニアの姿は、日本を飛び出して新天地を求めたポリゴン・ピクチュアズと重なる。/『シドニアの騎士』©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

 



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日本の小規模なクリエイティヴは「阿吽の呼吸」が前提になっているという。だが大規模になり人が増えるほど価値観は多様化する。イメージの共有に困難を伴う。ポリゴン・ピクチュアズではプレビズを充実させるべく、ゲーム開発用の美麗なリアルタイムCGツールの導入も検討中だ。「改善」に次ぐ「改善」──彼らが量産体制を支えるマインドは、まさしく製造業そのものである。


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24インチの液晶ペンタブレットを席に据え置く森山佑樹。『シドニアの騎士』でキャラクターデザインを手掛ける彼は、「原作者である弐瓶勉先生との打ち合わせが凄く楽しい」と率直に語る。
北米で勝ち取った大型受注を契機にポリゴン・ピクチュアズは経営危機を脱し、世界で5指に入るテレビアニメCGスタジオへと成長した。

異業種の事例を真摯に学び、映像業界の体質改善を説く塩田だが、一方で日本のお家芸たる「ものづくり」の現状に不満も感じている。


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あらゆる場面において引用こそが源泉。引用は武器だ。そう語る経営者の視線は、やがて自分たちが「引用される」という未来を見据え、待ち望んでいる。


「CREATIVE HACK AWARD 2017」受賞作品、決定!

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TEXT & PHOTOGRAPHS BY ASSAWSSIN