﹃シドニアの騎士﹄は2カ月前に納品した
王道のSFロボットアクション、舞台は宇宙、敵は怪物──TVアニメ﹃シドニアの騎士﹄の評判がいい。いまどきの﹁萌え﹂とは無縁なSFコミックのマエストロ・弐瓶勉の乾いた絵柄による原作と、デジタルの質感が絶妙なハーモニーを奏でている。よくぞ﹁CGによるアニメ化﹂を選択したものだと感心させられる。制作を手がけるのは、日本でも古参となるデジタルアニメーションスタジオ「ポリゴン・ピクチュアズ」。その代表取締役CEO・塩田周三が、企画誕生のプロセスを明かしてくれた。
だが『シドニアの騎士』を映像化するとなれば、美麗なグラフィックと凄絶なバトルシーンで視聴者を圧倒しなければならない。その点、テレビアニメの「30分・毎週・3カ月で12本放送」という枠組みは、制作現場にとって相当にストレスフルなはずだ。まず物量が多い。アニメ業界では「放送日の当日朝に納品した」などという、青息吐息の武勇伝を耳にすることもしばしばある。同業者たちはシドニアのクオリティが破綻しないか、鵜の目鷹の目で見守っていることだろう。そう問いかけると、塩田は苦笑する。
映像業界で比較的単価が高い仕事といえば、CMと相場は決まっている。だが塩田らは広告業界にも希望を見出せなかった。15秒程度の短い映像制作では、自社のワークフローが活かせない。しかも短い尺を得意とする、少数精鋭のCGクリエイター集団が台頭し始めた。ソフトウェアとパソコンの低価格化が追い風となり、メディアはこぞって「一人プロダクションの時代が到来した」と騒いだ。
「アメリカの映像業界って人材が流動的なんです。『プーさんといっしょ』で一緒に仕事をした監督がディズニーをやめて、ハズブロ・スタジオ(大手玩具メーカー・ハズブロの系列会社で、トランスフォーマーのアニメシリーズをてがける)に移籍した。そのおかげで『トランスフォーマー プライム』が実現する。一方でディズニーからは『トロン:ライジング』の依頼があり…という、いい流れが生まれた」
日本の小規模なクリエイティヴは「阿吽の呼吸」が前提になっているという。だが大規模になり人が増えるほど価値観は多様化する。イメージの共有に困難を伴う。ポリゴン・ピクチュアズではプレビズを充実させるべく、ゲーム開発用の美麗なリアルタイムCGツールの導入も検討中だ。「改善」に次ぐ「改善」──彼らが量産体制を支えるマインドは、まさしく製造業そのものである。
異業種の事例を真摯に学び、映像業界の体質改善を説く塩田だが、一方で日本のお家芸たる「ものづくり」の現状に不満も感じている。
あらゆる場面において引用こそが源泉。引用は武器だ。そう語る経営者の視線は、やがて自分たちが「引用される」という未来を見据え、待ち望んでいる。