一杉裕志
草薙素子とAIの倫理問題
松田卓也(以下、松田) シンギュラリティを実現する超知能はどんな形態になるのでしょうか? 多くの人は機械超知能をイメージしていますが、一杉さんはヒト型人工知能だと考えているのですか。
一杉裕志(以下、一杉) まずヒト型人工知能が最初に実現されて、人類はそのヒト型人工知能を使ってヒト型ではない人工知能も含めたより高度な人工知能を開発する、ということになると思います。
松田 『攻殻機動隊』は2029年の世界を描いています。主人公の草薙素子は、脳だけが人間で他はすべて機械になっている。人間は脳から直接インターネットにアクセスしています。そんなことも可能になると思いますか。
一杉 可能性はありますね。ほかにも遺伝子改変や薬物など、人間の能力増強の方法はいろいろあります。
日本は﹁大変なこと﹂になります
松田 日本の人工知能開発の現状はどうですか。一杉 世界中の誰が高度な人工知能を開発してもおかしくない、とわたしは思っています。人工知能の開発に巨大な設備はいりませんし、必要な情報はすでにネット上にあります。だからどの国が次の人工知能を開発しても不思議ではない。そうすると、世界の軍事バランスが崩れて大混乱になる可能性がありますね。
松田 たしかに原理的にはそうですね。先ほど国際協調で悪意の人工知能開発を止めると言われましたが、現実的に可能でしょうか。
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逆転する貴族と奴隷
松田 人工知能による失業についてはどう考えていますか? 一杉 日本では少子高齢化が進んでおり、今後は労働力不足のほうが深刻な問題になってくると思います。いままで世界はアジアの労働力を使ってきたわけですが、アジアの人たちもどんどん生活水準が上がってきて人件費がかなり高くなってきている。今後はやはりロボット化、人工知能化が重要ではないでしょうか。つまり、いまは失業のほうが問題ですけれども、今後は労働力不足のほうが深刻な問題になるので、その対応をいまからやっておく必要がある。そのために人工知能開発を進めるべきだと思います。これについては、違う意見をもっている方もいるかもしれませんが。AIに恋をしてはいけない
松田 先日、ボストンダイナミクスがネット上で公開した動画のなかに、動物型ロボットを蹴飛ばすシーンがあって、それを見た「ロボット愛護派」が文句を言ってきた、という事件がありました。
一杉 人間はそんなふうに思ってしまうようにつくられているんですよ。自分とは違う種までかわいがる生物は、ヒト以外にはほとんどいません。ヒトはもう1万年くらい家畜とともに生きてきたわけですが、家畜を利用できる種族は、そうじゃない種族よりもはるかに有利なので、動物をかわいがる感情をもつようにヒトは進化してきたのではないかと思います。その回路が誤動作してロボットを蹴ると「かわいそうだ」と感じるようになったんじゃないかと。
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TEXT AND PHOTOGRAPHS BY ATSUHIKO YASUDA@XOOMS