リアル貨幣の最期──2人のビョルンの「お金の存亡」をめぐる闘い

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リアル貨幣の最期──2人のビョルンの「お金の存亡」をめぐる闘い
PHOTOGRAPHS BY by OLAF BLECKER

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未来が訪れた国

実際のところ、この銀行強盗に与えられた選択肢はかなり限られている。彼が気づかなかったのは、この国は世界的な経済変化の最前線にいるということだ。金融業界における現金は、現代のオフィスでの紙の束のようなものだ。ますます不要になり、視界からも消えつつある。

スウェーデンは長きにわたって時代の先駆者だった。350年以上前に欧州初の紙幣を発行したこの国はいま、世界で初めてそれを廃止する国になろうとしている。

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INFORMATION

お金だけじゃない。「いまとは異なる未来」を考える1dayカンファレンス「FUTURE DAYS」

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お金は楽しくない、とそのポップスターは気づいた

マネー、マネー、マネー
楽しいに違いない
お金持ちの世界のなかは
マネー、マネー、マネー
いつだって晴れ
お金持ちの世界のなかは


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ABBAの元メンバーで現金を消すべく活動を行う、ビョルン・ウルヴァース。OLAF BLECKER

ウルヴァースがキャッシュレスという思想に取り付かれたのは、息子クリスチャンのマンションに強盗が押し入った2008年5月に遡る。幸いにも被害はなかったがクリスチャンはひどく怯えてしまい、強盗が再びやってこないかと心配して、自宅にいても廊下の角では辺りを見回すようになった。数週間後、彼の不安は的中した。留守中にバルコニーから2人の男が侵入し、カメラとブランドもののジャケットが盗まれた。






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アタリ、ビージーズ、テスラ


スウェーデンの銀行によってつくられたワイヤレス送金アプリ「Swish」。「BankID」というアカウント情報を確認するアプリを介して暗証番号を入力するだけで送金が可能。「Venmo」などの類似サーヴィスに比べて、送金にかかる時間は圧倒的に短い。getswish.seUNKNOWN

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キャッシュレス決済、ついに現金を上回る:英国

キャッシュレス化が進むのはスウェーデンだけではない。英国では2014年、消費者、企業、金融機関が行うすべての取引に占める現金の割合が48パーセントとなり、初めて50パーセントを下回った。

スウェーデンを含む北欧諸国でキャッシュレス化が進み、その結果として犯罪の撲滅や税収増が実現すれば、世界はこの流れに追随するほか選択肢はないと、ウルヴァースはほとんど狂信ともいえるほどの確信をもって信じている。





*** Local Caption ***SEAN FREEMAN

デジタルガヴァナンス最先進国エストニアに学ぶ「これからの政府」

バルト海に面した小国エストニアは、デジタル化による国家改造によって先進国もうらやむ「e-ガヴァメント」を築いてきた。世界で最も透明性が高く、効率のよい「政府」をはいかにしてつくられ、いかに運営されているのか。

スウェーデンの8つの異変



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現金の反乱

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現金貨幣を残すための団体「Kontantupproret」のリーダー、ビョルン・エリクソン。OLAF BLECKER

彼とウルヴァースの共通点はファーストネームだけではない。2人とも1945年生まれで、今年で71歳になる。ただ年月によってウルヴァースが急進的になったのに対し、エリクソンは保守的になった。

エリクソンはスウェーデンの税関で働いていた80年代初頭に、警察当局が違法な盗聴装置を国内に密かに搬入しようととしていることに気づいた。警察のトップは直後に辞任し、彼が後任に選ばれた。エリクソンはその後のキャリアを通じてずっと警察機構内に留まり、インターポールの総裁に指名されるまではスウェーデン警察のトップを務めている。いまは引退した身だが、働くのを止めることを考えたことはない。彼がこの「現金の問題」にかかわっている最大の理由は、腐敗、詐欺、セキュリティーに関連した懸念が至るところにあるためだ。


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お金がなくなると困る人たち

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VOL.16「お金の未来」

ペイメントを変えうる未来のカード「Stratos」などへの取材から見えてきた、お金と支払いと経済の未来とは? 一部では「もはや終わった」とさえいわれる暗号通貨ビットコインを軸に、新たなテクノロジーがマネーそのもの、あるいは世界の経済に対してもたらす可能性を追求する。




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新しい技術、新しい危険

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「サイバー犯罪はより攻撃的になっています」とスウェーデン警察サイバー捜査部門のウルリカ・サンドリング主席捜査官は言う。消費者は一般的にはこうした犯罪の脅威に無自覚で、自身を守るための手段を講ずることに消極的だ。彼らこそがスウェーデンの金融システム全体に不具合を引き起こす可能性のある「最弱のリンク」なのだと、彼女は指摘する。




暗号通貨・ビットコインの先にあるもの

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2人のビョルンが望むもの

アメリカの小売業界では昨年10月、ICチップ付きのクレジットカードへの切り替えが行われた(その予定だったが、実際の実施状況にはムラがあった。一部の小売店ではまだスライド式の磁気カードの利用が可能だ)。その結果、消費者は段階的に新しいICチップカードを受け取ることになる。

切り替えは、世間の注目を浴びたハッキング事件が次々と起こったことを受けての措置だった。住宅リフォーム用品を販売するホームデポの顧客のカード情報5,600万件が流出したほか、スーパーマーケットチェーンのターゲットでは4,000万件、百貨店のニーマン・マーカスでも数百万件の顧客情報が被害にあっている。“新しいICチップ技術”(EUでは10年以上前から標準化されているが)は、電子決済をより安全なものにするはずだった。

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そして今年3月、米国の複数の主要銀行が新たな電子決済サーヴィスのプラットフォームを明らかにした。名称は「clearXchange」(開発段階ではもう少しましな名前になると報じられていた)。遂に米国版Swishが登場したのだ。

こうした動きは、過去数年は大きな進展のなかった米国のキャッシュレス化運動を加速させることになるだろう。ここ数年、電子決済が全体に占める割合は50パーセント前後で変化がなかった。アメリカ人はスウェーデン人に比べ、国の制度を信用しない傾向がある。そしてそれにはきちんとした理由がある。スウェーデンでは消費者は厳格な個人情報保護法で守られているのに対し、アメリカの消費者保護システムはかなり脆弱なのだ。


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PHOTOGRAPHS BY by OLAF BLECKER

ARTWORK BY by SEAN FREEMAN

TEXT BY by MALLORY PICKETT

TRANSLATIONS BY by CHIHIRO OKA