津輕地方とチエホフ

太宰治




 退退
   
   
   ()
 鹿
鹿
 それからまた「櫻の園」のトロフイーモフ氏の言の如く、
使()  
 さらにまた「三人姉妹」に於ては、トウゼンバツハ氏とマーシヤさんが、次のやうな會話を交してゐる。
トウゼンバツハ――二百年三百年後はおろか、たとへ百萬年の後でも、生活はやはりこれまでの通りです。我々に何の關係もない――少くとも、我々の到底知ることの出來ないやうな、それ自身の法則に從ひながら、生活は永久に變ることなく、常に一定の形を保つて續いて行くでせう。渡り鳥、まあ、例へば鶴などが飛んで行くとする。そして高級なものか低級なものか、とにかく、どんな考へがその鶴の頭に宿つてゐるとしたところで、彼等は依然として飛んで行きます。そしてなぜ、どこへといふ事は知らないのです。たとへ、どんな哲學者が彼等の間に現れようと、彼等は現在も飛んでゐるし、また未來も飛んで行くことでせう。何とでも勝手に理窟をこね※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)すがいい、おれ達はただ飛べばいいんだつてね……
マーシヤ――それにしても意味といふものが――
トウゼンバツハ――意味ですつて……いま雪が降つてゐる、それに何の意味があります?
 
 





11
   1999113251
 
   194621515


20111012

http://www.aozora.gr.jp/




●表記について


●図書カード