雪柳

泉鏡花






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 ()()()()輿()()()()()()()()()()※(「風にょう+(犬/(犬+犬))」、第4水準2-92-41)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
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 ()()()※(「彳+淌のつくり」、第3水準1-84-33)※(「彳+羊」、第3水準1-84-32)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 
 
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十六七はさおに掛けた細布、折取りゃいとし、手繰りよりゃいとし……
 

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浅間山のふもとにて火車往来の事
 ()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()※(「石+角」、第3水準1-89-6)()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 
目白辺の屋敷猫を殺しむくいし事
下谷したや辺にて浪人居宅化霊けりょうありし事
三州岡崎宿にて旅人狒々ひひに逢う事
奥州にて旅人山にり琴のを尋ねる事
 題を見ただけでも、からから渡りものの飜案で、安価な上方かみがた版のお伽稗子とぎぞうしそのままなのが直ぐ知れる。
新吉原山口にて客幽霊を見し事
おなじく角町すみちょう海老屋えびやの女郎客の難に逢いし事
 二つとも、ものあわれなはなしだが、吉原の怪談といえば、おなじようなのがいくらもあります。
上野国こうずけのくに岡部の寺にて怪しき亡者の事
美濃国みののくにの百姓の女房大蛇おろちになる事
 どうも灰吹はいふきから異形になって立顕たちあらわれるのに、ふたをしたい、煙のようなのが多い。誰の気もおなじと見えて、ずらりと並べた目録の上に、いつかこの写本を見た読者の心をひいたらしく、ただ一つ題の上に、大きなテンをかけた一条がある。
○浅草新堀にて幽霊に行逢う事
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 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()※(「哽のつくり」の「一」に代えて「くさかんむり」、第4水準2-86-14)()()()()()()()()()()()()()()()()
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大森辺魔道の事
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 ()()()()()()()()()()()※(「ころもへん+因」、第4水準2-88-18)()()()
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 ()※(「木+靈」、第3水準1-86-29)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
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 ()()()()※(「ころもへん+責」、第3水準1-91-87)()()()()()()()()()()()()
(――と話した時、小山直槙は眉をひそめたのであった――)
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 ()()()()()()()※(「目+爭」、第3水準1-88-85)()()
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(ようゆうばば術を施すのところ)
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 ()()()()※(「蚌のつくり」、第3水準1-14-6)()()()()()
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「何、唄をお聞きになる、よろしい、やッつけましょう。節なしに……もっとも、節をつけては大変だ。……繰返して、聞いたから、そこ、ここうろぬきながら覚えています。――恋とサア、というくどきです。
恋とサアなさけのその二道は、やまと、唐土もろこしえびすの国の、おろしゃ、いぎりす、あめりか国も、どこのいずくも、かわりはしない。さても今度の心中話。それをくわしくたずねて見れば、加賀の城下のその片畔かたほとり、能登屋仁平が、
 これです、年とった亭主というのは。――
女房にょうぼのおとせ、年は二十一愛嬌あいきょう盛り……
 ちょっと娘が気になりますね。鼓をうってる……年もちょうどそのくらい。
いつの頃から夫に忍び、その名岩島友吉こそは、年も二十六、やさがた生れ、きりょういのについかされて、人目忍びて逢う瀬の数も、……
 ――阿漕あこぎが浦のたびかさなれば、おさだまりで、たちまち近所となりのうわさ、これも定まる処です。
夫仁平は穏厚おんとな生れ、かっと燃立つ胸なでおろし、それが素振そぶりは顔へも出さず……
 いいか、悪いか、分りませんが、金沢ものだ、仕方がない、とにかく杯を合せましょう。で、何しろ、かように親類縁者までの耳へ入るようになっては、世間へ済まぬ。今はこれまで、いとまをくれよう、どんな夫を持とうとも、そうなれば仔細しさいはないと、穏厚人おんとじん、出方がまことにおとなしい。……もっとも、
そちがこのへ来たそのはじめ、わずか年さえ二七の春よ、思いまわせば七年以来……
 というのです。二七の春――私はまた……曳船で見た、お冬さんのそのころの年を思った、十五六――
いえばおとせは顔赤らめて、何もいわずに恥し姿。五年六年、年つき日ごろ、かわい、かわいと、でさするまで、なさけわすれた不義いたずらを、ぶつか叩くか、しもしょうことを、すいた男を添わせてやろと、かかる実意な夫をすてる、冥利みょうりすぎます、もったいなさに、天の冥加みょうがも、いと可恐おそろしい。せめて夫へ言訳のため、死んでおわびは草葉の蔭と、雨に出てく夜空の涙……
 それから屋敷町の暗夜やみへ忍んだ、勿論、小禄らしい。約束のつぶてを当てると、男が切戸から引込んで、すぐ膝に抱く、泣伏す場面で、
そなた一人をあの世へやろか、二人ならでは死なせはしない、何の浮世はただ仮の宿、どうで一度は死なねばならぬ、死んで未来で添遂げようと、いえば嬉しやなおさら涙。さらば最期とかねての用意、女肌には帷巾かたびらに、上は単衣ひとえ藍紺縞あいこんじまよ、当世とうせはやりの……
 その頃の派手らしい藍紺縞――これを最初に唄った時、尼婆さんは、当世はやりの何とか、と高々とやりながら忘れていた。ちょうど、お孝が銚子のかわりめに立った時だったのです。が、尼婆さんの首をひねる処へ上って来て、
当世はやりの黒繻子くろじゅすの帯……
 と言継いだ。ちょいちょい唄うらしい、尼婆さんの方で忘れた処を、きき覚えのお孝が続けたのですが、はて、……呉絽服綸ごろふくりんではなかったか、と尼婆さんはもう一度考えましたが、
……黒繻子の帯、二重ふたえまわして、すらりと結び、髪は島田のこうがい長く、そこで男の衣裳と見れば、下に白地の能登おりちじみ、上は紋つき薄色一重、のぞき浅黄のぶッさき羽織ばおり、胸は覚悟の打紐うちひもぞとよ、しゃんと袴の股立ももだちとりて……大小すっきり落しにさして……
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死出の山辺の灯一つ見える、一つともしに松ただ一つ、一本松こそ、場所屈竟と、頃は五月の日も十四日、月はあれども心の闇に、迷う手と手の相合傘よ、すぐに柄もりの袖絞るらむ……
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※(「足へん+倍のつくり」、第3水準1-92-37)

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さらば最期のかねての覚悟。
女肌にはのかたびらに、上は単衣ひとえ藍紺縞あいこんじまよ………………
 
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女肌には緋のかたびらに……
 ()()()()鹿()()()()()()穿()
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穿
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心細道、岩坂辿たどり、辿りついたはその松の蔭、
……その一本松よき死場所と、
かげの夫婦は手で抱合うて……
 それから何でしたっけ。」
 お冬が、
「……かくす死恥……ですわ、そんな、唄、うたってかまいませんか。
かくす死恥旗天蓋てんがいに、蛇目傘じゃのめ開いて肩身をすぼめ……
 あれ、お燈明とうみょうが、石燈籠に。
おとせあれ見よ、草葉の露に、青い幽迷かすかな蛍火一つ……
 


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()宿
 姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
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 ()()()()※(「目+爭」、第3水準1-88-85)
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底本:「泉鏡花集成9」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年6月24日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十四卷」岩波書店
   1940(昭和15)年6月30日第1刷発行
初出:「中央公論 第五十二年第十三號」
   1937(昭和12)年12月
※訂正注記に際しては、底本の親本を参照しました。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2012年9月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード