古代之少女

伊藤左千夫






 
 
 
 ※(「奚+隹」、第3水準1-93-66)
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 姿
 ※(「奚+隹」、第3水準1-93-66)
 



 殿殿
 殿
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 殿
 

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 殿殿
 ※(二の字点、1-2-22)殿殿殿
 殿殿
 滿滿
 
殿殿

 殿使
 



 西()()()()()()
 
稻つきてかゞる吾手を
今宵もか
殿の若子わくごがとりて嘆かむ
 見れば手古奈はそれほど紅葉に見とれて居るのでなく、又水を汲まうともせず、繰返し/\同じ歌を唄うて居る。其聲は決して氣樂な聲ではない。手古奈は矢張心の奧に苦悶して居るものか、美人は如何なる場合にも調和する。手古奈は茅屋の主人としても井戸端の主人としても能く調和する。手古奈を主人とすれば、茅屋にも井戸端にも光りがある。そして殿中に主人となれば殿中に光を生じ、宮中に主人となれば宮中に光を生ずるは手古奈であらう。
「何がそんなに面白いかえ」……かう消魂しく叫んで手古奈に走り寄つたは、太都夫の妹眞奈まなであつた。二人は一寸笑顏を見合せたまゝ互に井戸を覗く。おオ綺麗な紅葉よと眞奈も云つた。手古奈は眞珠で眞奈は瑪瑙か。玉のやうな二つの顏が水に映つたであらう。瑪瑙と云つても安い玉ではない。眞珠に比ぶればこそ劣りもすれ。何の用があつて來たとも云はず、又何できたとも問はない若い同志の境涯ほど世に羨ましいものはない。やがて眞奈が水を汲でやる。手古奈が洗物をする。其間に眞奈は此月中には館で大競馬をやるといふ噂を聞いたこと、兄の太都夫は今朝から馬の手入を始めたといふことゝ、今少歳にもさういうて來たなどゝ話をする。洗物が濟むと二人は又背揃ひして竈屋へ這入つた。
 此秋から眞奈が何のかのというて能く手古奈の家に來る。今では手古奈と眞奈は二なき友達であるが、それにはをかしい二重の理由がある。始めは兄の太都夫が、どうかして手古奈の家に出入せんとの工夫から、妹を橋に使つたのであれど、却つて眞奈が度々此家にくるにつけ、いつしか少歳に下戀するやうになつた。兄が戀する手古奈の人柄は眞奈にも女ながら非常に慕はしいのだ。眞奈が遂に手古奈の兄なる人を思ひそめしは其動機が極めて自然である。
 眞奈が兄に對する役目は十分に果たされたには相違ないが、兄の目的は殆んど失望に終つた。眞奈は窃に兄の失望に同情を寄せては居れど、それが爲に吾思ひを絶つまでには至らぬ。今では眞奈が此家にくるには兄の前さへ拵へて來るのである。
 眞奈は口實さへあれば少歳の仕事に手傳ひをする。少歳が手古奈に仕事を言ひつけると眞奈が屹度一所にやる。少歳が無器用な男で何事をするにも廻りくどい、眞奈は見かねてさうせばよいかうせばよいなどゝいうては時々少歳に叱りつけられる。なんだこのあまつ兒めがなどゝ隨分興さましな小言をいふことがある。さうかと思へば殆んど手古奈と見界もなく無遠慮に眞奈を使ふこともある。
 兄の太都夫に似て、眞奈も極めて勝氣だが、少歳にはどんな無體を言はれてもそれが一々嬉しいらしい。尤も少歳がすることは何でも惡氣がないのだが、眞奈には一層憎からず思はれるのであらう。手古奈は勿論兩親まで、眞奈の素振に氣がついてとほにそれと承知して居るけれど、おほまはしの御本人が一向に氣がつかぬ。少歳がいさくさのない口をきく度に三人が蔭笑をするのである。併し太都夫の戀は最早成功の道はないけれど、眞奈の望みは殆んど成功して居る。手古奈の兩親も眞奈の氣性を好いて居る。殊に兩親は少歳に氣があつてくるといふことを却つて嬉しく思つて居る樣子が十分に見える。それに少歳は又兩親がよいとさへ言へば決して自分の好みなどいふ風でない。されば手古奈の身に目出度事でもあれば、次は續いて眞奈の極りがつくは判り切つて居る。
 眞奈は手古奈より一つ年下で、未だ十七の若さだけれど、例の氣邁で何をさせても友達などに負けてはゐない。それで男子に對する感情は又妙に其氣性と反對だ。自分に對し生やさしい上手を言ふたり、女を悦ばせようとする樣な調子に物を言ふ男子などが大の嫌ひであるのだ。男の癖に厭らしいといふが、いつも眞奈の口癖で、そんな風の男を一概にニヤケ男と言つて排斥するのである。
 あれが判らないのかと親や妹に笑はれながら、とんと氣もつかぬ位な少歳は、實に厭味といふもの少しもなく淡泊な男である。眞奈はかう思つてゐる。些細な事に愚痴つかない少歳には、目立つた親切などは出來ないが、らちもなく情を張つて、相手を泣かせるやうな、意知の惡いやうな處も決してない人だ。ねち/\した野郎などとは物言ふのも厭だけれど少歳にならば、擲られても見たい……。
 眞奈はどうしても人に思はれるといふより人を戀する質らしい。



 殿殿()()
 
 殿使
 
 
 殿
 
 殿
 
 滿
 
 使
 殿
 殿
 
 
 



 殿使()()使使
 殿使殿使
 
 
 殿
 
 殿殿殿殿殿
 調
 
 
 
 使
眞間の江や先づ引く汐に背き得ず
靡く玉藻はすべなし吾君わぎみ
いたづらにことうるはしみ何せんと
君が思はむ思ひ若しも
 
 
 
 
 殿
 殿殿殿
 
 
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 滿
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 殿麿
 西殿麿
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 調
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 殿
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 殿殿
 
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 殿殿
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 殿殿
 
 殿殿殿
 殿
 殿殿
 



 
 姿
 
 
 
 
 
 
 
 
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 U+544C265-1
 
 



 
 調
 
 
 
不意討は卑怯である使者を私部が許に差立る事
館の許しなきに弓矢刀劒を用ゐるは穩かでないから一切竹槍の事
途中の亂行をしてはならぬ、直に私部の家に迫つて五人に對する身替りを強請すること
途中迎撃に逢はゞ勿論決戰をなすこと
私部が家には自分が自ら使者となるに就き、一刻の後に押掛ける事
太都夫には日置の館に此始末を注進することを託すること
 ※(「睹のつくり/火」、第3水準1-87-52)
 
 姿
 調



 
 使
 
 使
 
 
 
 使
 
 
 
 
 使滿
 
 滿滿滿
 
 
 滿※(二の字点、1-2-22)※(二の字点、1-2-22)
 



 
 
 
 
 
 

 
 
 

 
殿

 
 
 
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 退
 
 
 
此度の事能々考ふれば、罪吾にありと思ふの外なし、吾今多くを言はず、吾死は一には吾病のため、一には諸子が望みなる五十人の身替りのためなり、諸子願くは歸つて主君に告げよ、吾死や固より手古奈に關すと雖も、吾は只吾不幸を悲しむの外に何等の遺恨を止めず、日置夫妻は毫末も吾死を念とすることなく、永く幸福を樂しまれむことを望む、吾家又吾に勝る弟あり、諸子吾生害の情を汲まば、日置私部の兩家の交をして舊に復せしめよ。
私部小室手書
 
 
 
 
 
 
 
 姿





底本:「左千夫全集 第三卷」岩波書店
   1977(昭和52)年2月10日発行
底本の親本:「左千夫全集 第三卷」春陽堂
   1921(大正10)年1月1日発行
初出:「臺灣愛國婦人 第二十三〜二十九卷」
   1910(明治43)年10月15日〜1911(明治44)年4月1日
※「凛々しき」と「凜々しき」の混在は、底本通りです。
入力:H.YAM
校正:高瀬竜一
2014年2月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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●表記について

「口+斗」、U+544C    265-1


●図書カード