ライネル・マリア・リルケ Rainer Maria Rilke

堀辰雄訳




まだすこしもスポオツの流行はやらなかつた昔の冬の方が私は好きだ。
人は冬をすこしこはがつてゐた、それほど冬は猛烈で手きびしかつた。
人はわが家に歸るために、いささか勇氣を奮つて、
ベツレヘムの博士のやうに、眞つ白にきらきらしながら、冬を冒して行つたものだ。
さうして私たちの冬の慰めとなつてゐた、すばらしい焚火は、力づよく活氣のある焚火、本當の焚火だつた。
人は書きわづらつた、すつかり指がかじかんでしまつたので。
けれども、助力し合つて、夢みたり、失せやすい思ひ出をすこしでも引きとどめたりすることの、何んといふよろこび……
思ひ出はすぐそばにやつて來て、夏のときよりかずつとよくそれが見られたものだ。……人はそれに彩色までした。

かうして室内ではすべてが繪のやうだつた。


 それにひきかへ戸外では、すべてが版畫のおもむきになつてゐた。

 さうして樹々は、自分たちの家で、ランプをつけながら仕事をしてゐた……







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tatsuki

20101115

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