太郎さんはしじゅう寝ぼけてしくじるので、口惜しくてたまりません。明日は運動会だから、決して寝ぼけずにちゃんと自分で支度をして、みんなを驚かしてやろうとかたく決心をして寝ました。
あくる朝大へん早く起きたものがありますから、太郎さんは飛び起きますと、お母さんが坐って、
﹁太郎さん、今日は雨がふって運動会がお休みになったのだよ。さっき先生がお寄りになったから本当です。ゆっくりお休みなさい﹂
と言われました。太郎さんは昨日先生が﹁雨が降ったら運動会はおやめ﹂と言われた事を思い出して、安心して眠りました。
しばらくすると又太郎さんはお母さんからゆすぶり起こされました。
﹁太郎さん、太郎さん、大変よ。お天気になったよ。運動会があるよ﹂
太郎さんは、寝ぼけてはならぬと、寝床の中で考えはじめました。どっちが本当だろうと考えてみましたが、どうしてもわかりません。
﹁さあさあ、太郎、起きろ起きろ﹂
と今度はお父さんの声がしました。
﹁お弁当は出来ていますよ﹂
と姉さんの声もきこえて来ました。仕方なしに太郎さんは起き上って、御飯を食べて袴をはいて新しい靴下と白足袋をはいて、それからもし運動会がなかった時の用心に昨日次の日の時間割に合わして本を詰めて置いた鞄を荷かついで、学校に行きました。
来てみると運動場には誰もいず、一パイに水たまりが出来ています。教室に行ってみると、ここもガランとして鼠一匹おりません。
変だなと思っておうちへ帰ってみると、家中の人は皆、太郎さんの顔を見て一時に笑い出しました。
太郎さんは憤おこって、
﹁何故僕を笑うの。僕は寝ぼけていやしない。運動会がお休みの時の用心に鞄をちゃんと持って行ったんだ。そしたら学校に誰もいないんだ。教場にもいないから変でしょうがないんだ﹂
と泣き出しそうな顔をしました。
みんな死ぬ位笑いながら言いました。
﹁太郎さんはまだ寝ぼけているの。今日は日曜じゃないの。運動会がなければ学校はお休みですよ。お母さんが運動会があると言ったのがわるかったのね﹂
太郎さんは恥かしさと口惜しさにとうとう泣き出しました。お父さんはその背中を撫でて慰めて下さいました。
﹁感心感心。日曜までも勉強をする児はお前より他にない。泣くな泣くな﹂