對州嚴原港にて

長塚節




 便()()
對州名物鳶に烏又も名物屋根の石
 然し鳶も烏も殆ど目に觸れず。昨日竹敷まで行つて見たが途中の民家は皆瓦葺で石を載せたといふのは少かつた。
女の馬乘脊中せなに籠三巾の前掛カス卷横ぐはへ
 在から嚴原の港へまきなど賣りに來る女が歸りに馬上で辨當代りに横かぢりに噛るのがカス卷で、それは菓子の名である。馬は皆小さい。さうして島の産で無ければ蹄を痛めて用をなさぬ相だ。
 朝干して居た烏賊いかが竹敷から歸りに見ると餘程するめの臭ひになつてゐた。對州も一寸覗いただけでもう壹州へ渡るのだ、仕方が無い。今日は雨である。(六月廿六日)

(明治四十五年七月二日、國民新聞 所載)






底本:「長塚節全集 第二巻」春陽堂書店
   1977(昭和52)年1月31日発行
入力:林 幸雄
校正:今井忠夫
2000年5月10日作成
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