小熊秀雄全集-13

詩集(12)その他の詩篇

小熊秀雄





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便


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そんなに感情的であつてはいけません、
何ごとも理性ですよ、
理性ですよ。








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調

××


調




































お婆さん
聞きちがへるぢやないぞよ、――
はきちがへるぢやないぞよ、――
救つて下されぢやないぞよ、――
助けて下されぢやないぞよ、――
弥陀の親様の方から
助けさしてくれいよ、
救はしてくれいよの、
お声がかりぢやぞよ。
寺院は風にさわぐ稲の穂のやうにざわめきたち、
あちこちに消え入るやうな人々の声、
なんまんだぶ、なんまんだぶ、
なんまんだぶ、
一個の木像を前にして
僧侶は前進、後退法衣の鮮やかな裾さばき
読経は男声四重唱
鐘、太鼓、木魚、銅鑼のオーケストラ、
見あげるやうな寺院の高い天井まで
読経の声と、香の煙と、匂ひで満たす、
緊張をもつて儀式は始まり
緊張をもつて終るやうに
一隊が朗々と読経すれば
指揮者が急所急所のカンどころで
経本をもつて立ちのぼる香煙サッと
切つて大見得をきる、
肝心なところでは合の手に
銅鑼係りがドラをもつて
ヂャンボン、ヂャンボン、心得たものだ、
なんと充実した音響の世界、
僧侶は、信者がこゝで思索することを好まない、
一切は弥陀の他力本願であつて
仏を批判するものは地獄へをちるぞ――
高坐の上から説教師は
技術のすばらしさをもつて大衆を説得する、
突如、狼のやうに叫ぶかとおもへば
また猫のやうな猫撫で声になる、
摂津の八郎兵衛の宗教物語、
――お師匠さま
弥陀の親さまの
おんとしは
幾つでござりませうか、
おゝ、八郎兵衛
弥陀の親さまの、おんとしか、
みだの親さまのおんとしは
そちと同じだぞよ
そちと同じだぞよ、
物語ひとくさり語り終ると
あちこちでは感動の嘆息とスヽリ泣き、
老婆は痩せた膝の中へ、すつかり頭を突つこんで
鼻水をすすり、すすり、
――あゝ、有り難い
御慈悲さまでござります
私のやうなイタヅラものゝために
五劫十劫の
御苦労あそばされるとは
何とまあ
広大な御慈悲さまで
ござりませう
なんまんだぶ、なんまんだぶ、
なんまんだぶ、






























































































 
 
 





























     







     



     


     


     










     



     




     


     




     




     



     























































「今晩は、今晩は
夜更けて済みませんが
強盗ですが入つて構ひませんか」
「どうぞ――」
「ははあ、人道主義者の家だな」
真夜中、戸をたたく
トン、トン、トン、トン
「今晩は、今晩は
夜更けて済みませんが
強盗ですが入つて構ひませんか」
「真夜中に喧ましい奴だ
伝家の宝刀で、ぶつた切つてしまふぞ」
「ははあ、軍人の家だな」
真夜中、戸をたたく
トン、トン、トン、トン
「今晩は、今晩は
夜更けて済みませんが
強盗ですが入つて構ひませんか」
「眠い、眠い、ムニャ/\
今頃誰だ、強盗?
まご/\してゐないで早く
そこの橋を向うへ渡つてしまへ」
「ははあ、刑事の家だな
成程、あの橋を渡れば
向うの署の管轄か」















































退























使









 
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使 
 

 

 
 













































































退


















歌を歌はぬことは
君にとつては、お気の毒さま





























































































  















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綿




























































































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使





昼頃から雨雲が一つ、空に浮んでゐるが動かない。夕方になつたが鋪道は熱い。
そのころ雲はやつと、位置を変へはじめた。
なんて自然は、人間のやうな感情家だらう。
空を走る電光は、人間の額を走る青筋のやうだ。
空のあちこちでは、陶器を乱雑にこはしまはる男が駈けまはつてゐるやうに鳴る。
突然大劇場の屋根の避雷針のあたりに光と音との突然の衝撃が、冷めたい青い光を投げ下ろした。
私は、カミナリの激しさに命が惜しくてならない――といつたあわてぶりで逃げまはる群衆をみて、思はず或る一つのことを思ひ出して微笑が湧く。
ロシアの詩人レルモントフが夜、雷の激しさに感動して、扉をひきあけて戸外にとびだし、いきなり電光を手掴みにしようとしたことを。
それは少しも奇矯な行為ではない。詩人の感情がいかに高い衝動のために、いつも用意されてゐるかを示すものだ。



































































































































 


調












調







調
































































































 

























宿









 


















「午前零時
 西部防衛司令部発表
 最近
 蒋軍閥は我が国土の空襲を
 企図しあるが如し」と
 




















調










宿











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尿


























































  

































  


 

 
 

 
 
 

































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姿








西


















































姿
















































姿








鮪は「おゝ大鯛クン君もやられたか」
大鯛「ウン残念だ、このまゝ引つ込むのは癪だ」
鮪は「大鯛君ところで近頃は新体制で、我々は目方売になつてゐるんぢやあない」














稿





























姿


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××××





















稿





















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稿


調


調





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十年や二十年
材料は尽きないはずです、
あなたの人間修業と
数々の経験に




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寿















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 退
 

 
 
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    風船
空はこばると(今野)
昆虫学者は網を持ちて野原を馳ける(鈴木)
あゝ秋の風船の快よき(広瀬)
学者はしばし昆虫をとる(小熊)
ことを忘れて空を見上げた
空には何もなくなつた(今野)
ヱアシップの哀れなるかな(広瀬)
ちぎれ雲ひとつ(小熊)
へう/\吾魂を流しゆきぬ(鈴木)

出題  小熊秀雄


    夜の花
浮浪人は徳利を抱いて畳に寝ころび(鈴木)
つく/″\と阿母が恋しくなつた(小熊)
しかと花を抱いて眠りぬ(広瀬)
あゝこの男に昨日があるのだ(今野)
真昼は陽気に夜は陰気に(小熊)
幸福と不幸を織り交ぜて(広瀬)
あゝいつか男の息は絶えてゐる(今野)
されどあけぼのゝ雀は障子にながむ(鈴木)

出題  広瀬操吉


    豚
豚が欠伸あくびする真昼時(広瀬)
はらんだ牧女があらはれた(今野)
彼女は豚に餌をやりながら胎児のことを考へた(小熊)
胎動を感じつゝ群がる仔豚を愛撫する(鈴木)
あはれ秋風よつれなき男に(広瀬)
情ある男に(今野)
吾養豚所のをみなの心を伝へてよ(鈴木)
かくて重き妊婦は空を仰いだ(小熊)

出題  鈴木政輝


    夜の陶器
この壺はうれひなくふくらみ(小熊)
夜の光線は照らされて(広瀬)
蒼白い叔母のマスクが写された(今野)
この壺はうれひなくふくらみ(鈴木)
遠き秋風の音を聴きつゝ(広瀬)
ふるさとの唐土を追憶し(小熊)
殺人事件を審判する(今野)
あゝこの壺はうれひなくふくらみ(鈴木)

  




        
(1)












(2) 





















小熊(3)空腹な人生
かう我々はこの人生を
呼ぶ必要がある、
完全な空腹ぢやないね、
ことは我々ロマンチストは
理想の入る余地と
詩をつくる余地と
詩が大衆に愛される
余地は充分あるね
料理方も
喰ひ方も
かうして親密に
心や胃の腑に入れるものを
熱心につくり
熱心に待つてゐる
    
(4) 礼儀がなく
しかし礼儀以上の
敬愛と自重を持つ我々は
きたない大地に
立派な種を播き込まうとする
その種の萌え上がる実は
黄金だらうか
丸弾ママだらうかと
いづれもかまはぬ
いづれでも飢餓の糧を
取換へる武器になる
我々はまた高い理想を
その種の中に孕ませる
――全く自由を戦取する人間の口
――彼らの強い呼吸に




(5)















(6) 


















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(8) 













 





(9)















        

(1) 




















(2)
















(3) 
















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(5) 駿


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退

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われらは鉄の友
われらは火の主人あるじ
われらこそは
ハンマーマン


便乗丸船長へ

君は次から次へと
波へ乗ることの巧みな
便乗丸の船長だ、
君はいつも地の利を応用する
またいつも太陽を背にして
このマブシイものを利用しながら
指導者ぶつて
号令をかけることを忘れない
ヒステリックにそして叫ぶ
――指路をさへぎるものは
 すべて罰当りだ――と
しかし我々はフンと笑つてやる、
君は海には悪擦れするほど
馴れてはゐるが
きつと一度はほんとうの海の塩辛い味を
知ることがあるだらう――。






   
   199134101
   
   
   1991311301


5-86

 
2006223

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