三八九雑記

種田山頭火




 なんとなく春めいてきた、土鼠もぐらがもりあげた土くれにも春を感じる。
水のいろも春めいたいもりいつぴき
 
  
 
終日尋春不見春  杖藜踏破幾重雲
帰来拭把梅花看  春在枝頭已十分
 
 




 椿椿椿
 

椿


 




 
 
よう燃える火で私ひとりで
大きな雪がふりだして一人
いたづらに寒うしてよごれた手
もう暮れたか火でも焚かうか
いちにち花がこぼれてひとり
雪あしたあるだけの米を粥にしてをく
ひとりの火の燃えさかりゆくを
 これらの句は、日記に記しただけで、たいがい捨てたのですが、わざとここに発表して、そしてこの発表を契機として、私はいわゆる孤独趣味、独りよがり、貧乏臭、等、を清算する、これも身心整理の一端です。樹明君にお嬢さんが恵まれた。本集所載の連作には、夫として父としての真実が樹明的手法で表現されている。
 私は貧交ただ駄作を贈って、およろこびのこころを伝える外なかった。
雪となつたが生れたさうな(第六感で)
雪や山茶花や娘がうまれた
雪ふるあしたの女としてうまれてきた
 私には女の子を持った体験はないけれど(白船君にはありすぎる!)、お嬢さんが日本女性としての全人となられることを祈願してやみません。

 今年はよく雪が降りましたね、雪見酒は樹明君と二人でやりました。雪見にころぶところまで出かけました。
燗は焚火でふたりの夜
 調




 稿
 

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春は長い煙管を持つて
     ――(二、二七、夜)――

(「三八九」第六集)






底本:「山頭火随筆集」講談社文芸文庫、講談社
   2002(平成14)年7月10日第1刷発行
   2007(平成19)年2月5日第9刷発行
初出:「「三八九」第六集」
   1933(昭和8)年2月28日発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年5月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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