雑記

種田山頭火




 私には私らしい、庵には庵らしいお正月が来た。明けましてまずはおめでとうございます、とおよろこびを申しあげる。門松や輪飾りはめんどうくさいから止めにして、裏山から歯朶を五六本折ってきて瓶に挿した。それだけで十分だった。
歯朶活けて五十二の春を迎へた
 お屠蘇は緑平老から、数の子は元寛坊から、餅は樹明居から頂戴した。

 元日、とうぜんとしていたら、鴉が来て啼いた。皮肉な年始客である。即吟一句を与えて追っ払った。
お正月のからすかあかあ
 樹明君和して曰く、
かあかあからすがふたつ
 

 
 
 

 
 
たべきれないちしやの葉が雨をためてゐる
けさはけさのほうれんさうのおしたし
霜の大根ぬいてきてお汁ができた
 こんな句がいくらでも出来ます。畑作よりも句作の方がまだ上手だという評判です。

 会費について二三照会せられた方がありますから、ざっくばらんにここへ書き添えて置きます。あれはまず米一升というところで、二十五銭としましたが、それに拘泥するには及びません。それより多くても、また少くてもかまいません(タダでは困りますけれど)。私の生活は伸縮自在、化方に通じています。金があればあるように、なければないようにやってゆきます。

 急にお寒くなりました。夜更けて物思いにふけっていると、裏の畑で狐が鳴きます。狐もさびしいのでしょう。
 諸兄の平安を祈ります。(一、一六、夜)

(「三八九」第五集)






底本:「山頭火随筆集」講談社文芸文庫、講談社
   2002(平成14)年7月10日第1刷発行
   2007(平成19)年2月5日第9刷発行
初出:「「三八九」第五集」
   1933(昭和8)年1月20日発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年5月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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