其中日記

(四)

種田山頭火





     



 







・けさは逢へる日の障子あけはなつ(追加一句)
 青田いちめんの長い汽車が通る
・炎天かくすところなく水のながれくる
・涼しい風が、腰かける石がある
・すずしうて蟹の子
・ふるさとちかく住みついて雲の峰
 水をわたる高圧線の長い影
・日ざかりのお地蔵さまの顔がにこにこ

宿
 




 
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      米 二升二合         酒   弐十銭
今日の所得          今日の買物
      銭 二十六銭         ハガキ 三銭


・朝月まうへに草鞋はかろく
・よち/\あるけるとしよりに青田風
・朝月に放たれた野羊の鳴きかはし
・田草とる汗やらん/\として照る
・木かげ涼しくて石仏おはす(改作)
・炎天の虫をとらへては命をつなぐ
・一人わたり二人わたり私もわたる涼しい水
・重荷おろすやよしきりのなく
















 




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   追加
・月あかり蜘蛛の大きい影があるく
・月夜の道ばたの花は盗まれた
・昼ふかく草ふかく蛇に呑まれる蛙の声で
・待ちぼけの、寝るとする草に雨ふる
・待つでもない待たぬでもない雑草の月あかり

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    掟(改訂)
一、辛いもの好きは辛いものを、甘いもの好きは甘いものを任意持参せられたし。
一、うたふもおどるも勝手なれども、たゞ春風秋水のすなほさでありたし。
一、威張るべからず、欝ぐべからず、其中一人の心を持すべし。
                        其中庵主
    右三章                    山頭火しるす
夜、樹明君がバリカンを持つて来て、白髪頭を理髪してくれた、ありがたい、言語同断ありがたかつた。
机の上に蝉の子がぢつとしてゐる、殼を脱いだばかりのみん/\蝉である、今夜はこゝで休んで明日からは鳴いて恋してそして死ね、お前の一生は短かいけれど私たちよりは充実してゐるぞ。

 七月十四日
 七月十五日 『行乞記』
 七月十六日





底本:「山頭火全集 第五巻」春陽堂書店
   1986(昭和61)年11月30日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:小林繁雄
校正:仙酔ゑびす
2009年1月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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●表記について