行乞記

仙崎

種田山頭火




 

※(「てへん+(麈−鹿)」、第3水準1-84-73)




宿宿


 旅立つ今朝の、蝉に小便かけられた
 朝月のある方へ草鞋はかろし
・あぶない橋の朝風をわたり山の仕事へ
 笹に色紙は七夕の天の川
・そこは涼しい峠茶屋を馬も知つてゐる
・夕立晴れた草の中からおはぐろとんぼ
・昼寝覚めてどちらを見ても山
・おのが影をまへに暑い道をいそぐ
 暮れると水音がある暗い宿で
・月夜の音させる牛も睡れないらしく
・旅はいつしか秋めく山に霧のかゝるさへ
・霧ふかく山奥は電線はつづく
・ゆふべの鳥が三羽となつて啼いてゐる
・山のまろさは蜩がなき
・蜩のうつマヽりなくに田草とる
 かなかなもなきやんだ晩飯にしよう


 
 



 











今日の行程八里。
今日の所得銭五十七銭、米三升六合。







 
 





 


穿







宿便殿宿
今日の所得(銭六十四銭、米二升二合)
晩のおかず(さしみ、茄子、焼海老)
夜は近所のお寺の夜店を見物した、観音祭らしい。
桟橋の涼風が身心をさはやかにしてくれた。
昨日は山の青さ、今日は海の青さ、明日はまた山の青さを鑑賞することができる。

 槿
 便




  


 

宿




 


宿



  
       
       
       


 



宿殿宿





 八月十四日

山村の朝は何ともいへないすが/\しさだ。
今日は樹明居徃訪を約してゐる、樹明君も待つてくれてゐるだらうか、同行の敬治君も待ちあぐんでゐるだらう。
急テンポで於福行乞、途中また堅田行乞、急いで帰庵したが、五時を過ぎてゐた、置手紙二つ、一つは樹明君が待つてゐるといふ、他は敬治君が待ちあぐねたといふ。
おそかつた、すまなかつた、くたびれた、がつかりした。……
昼食として桃を食べた、おいしかつた、気附薬として焼酎半杯、これはむろんうまい。
         ×    ×    ×
行乞七日間、懸命に稼いで(私のやうな行乞はまつたく筋肉労働である)残つたものは、銭が壱円四十銭あまり、米が三升ばかりだつた。
今日の所得(銭四十七銭、米一升六合)
行程八里。
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 八月十四日

於福から八里歩いて戻つて、戻るなり樹明居へ押しかけて、お盆のお経をあげてお盆の御馳走になつた、たいへん酔うた、道がわからなくて樹明君に途中まで送つて貰つた。……
樹明君ありがたう、敬治君すみませんでした、二時間も待たせて、そしてとう/\いつしよに樹明居襲撃ができなくて。

   

   
 
 


 

宿





 





 


便







 


 

使
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宿






   
 


 廿

宿



 
宿




   











 廿














 廿





 廿

















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 廿












 廿





   




 八月廿八日

晴、早天、酔うて倒れこんできた樹明君はそのまゝにして出立。

 八月廿九日
       『行乞記』
 九月三日





底本:「山頭火全集 第五巻」春陽堂書店
   1986(昭和61)年11月30日第1刷発行
入力:小林繁雄
校正:仙酔ゑびす
2009年1月15日作成
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