其中日記

(六)

種田山頭火




   











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庵はこのまゝ萠えだした草にまかさう
そして私は出て行く、山を観るために、水を味ふために、自己の真実を俳句として打出するために。
・ふりかへる椿が赤い
其中庵よ、其中庵よ。

 
 



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稿









 

 



 廿



調
姿


天気予報を裏切つて珍らしい凪、
ラヂオもある、ゆつたりとして、
人間は所詮、食べることゝ寝ることゝの動物か
高等学校の学生さんと漫談、
瀬戸内海はおだやか、
甲板は大衆的に、
兎の子を持つて乗つた男女
島から島へ、酒から酒へ!
船中所見、――
港について売子の売声、
インチキ賭博、
上陸して乗りおくれた人、
修学旅行の中学生、私も追憶の感慨にふける、
春風の甲板を遊歩する、
団参連中のうるさいことは、
船から陸へ、水から土へ、
四時神戸上陸、待合室で六時半まで。
自動車、自動車、自動車がうづまいてゐました。




 
 



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西



 
 



  



  

  
  
  
  
  
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廿()辿



 





 


















 
   
 
 
 
 
 


 


※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)
便




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湿
 
 
 


   
 
 
 
 






 









湿



  







 


湿



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綿
宿

宿







 


 




西




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便

姿






 
 

   
 



 











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米 四合、三椀づゝ三回
酒  マヽ合、昼酌 壱回
朝、味噌汁 二杯
昼、野菜  一皿
晩、同 外に佃煮
時々
うどん玉
まんぢゆう
これで食費一ヶ月まづ五円位。
△湯屋で感じた事、――
男湯と女湯とを仕切るドアがあけつぱなしになつてゐたので、私は見るともなく、女の裸体を見た(山頭火はスケベイだぞ)、そしてちつとも魅力を感じなかつた、むしろ醜悪の念さへ感じた(これは必ずしも私がすでに性慾をなくしてゐるからばかりではない)、そこにうづくまつて、そして立つてゐた二人の女、一人は若い妻君で、ブヨ/\ふくれてゐた、もう一人は女給でもあらうか、顔には多少の若い美しさがあつたが、肉体そのものはかたくいぢけてゐた、若い女性がその裸体を以ても男性を動かし得ないとしたならば、彼女は女性として第一歩に於て落第してゐる、――私は気の毒に堪へなかつた、脱衣場の花瓶に※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)された芍薬の紅白二枝の方がどんなにより強く私を動かしたらう!(私はまだ雑草のよさを味ふと同様に、女の肉体を観ることが出来ない、修行未熟ですね)


使



 うちの藪よその藪みんなうごいてゆふべ
・空は初夏の、直線が直角にあつまつて変電所
・閉めて一人の障子を虫がきてたたく
・影もはつきりと若葉
・ほろりとぬけた歯は雑草へ
・たづねあてたがやつぱりお留守で桐の花
・きんぽうげも実となり薬は飲みつゞけてゐる
・くもりおもくてふらないでくろいてふてふ
 この児ひとりこゝでクローバーを摘んでゐる
 摘めば四ツ葉ぢやなかつたですかお嬢さん(途上即事)
   











 


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 Adventure  Business Business 


 
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便



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  稿
 
 
 




 


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姿



 











・すでに虫がきてゐる胡瓜の花
・さつそくしつかとからみついたな胡瓜
・麦がうれたよ嫁をとつたよ
・なにがなしあるけばいちじくの青い実
・子を負うてさかなを売つて暑い坂かな
・茂るだけ茂つて雨を待つそよぎ
・蜂がてふてふが花草なんぼでもある
・風のふくにしいろい花のこぼるるに
・風の中の蟻の道どこまでつづく
・風ふくてふてふはなかよく草に
・風ふく山の鴉はないてゐる
・いちにち風ふいて永い日が暮れた
 暮れてふきつのる風を聴いてゐる


      








      
    
      

    
     
     
     
     
     
      


 






宿



 








・風をおきあがる草の蛇いちご
・鳴きつつ呑まれつつ蛙が蛇に
・雨をたたへてあふるるにういて柿の花
・霽れててふてふ二つとなり三つとなり
・いつでも植ゑられる水田蛙なく
・夏めいた空がはつきりとあふれる水


   












 





宿


 








   


 





 







   




 




 









・風ひかる、あわたゞしくつるんでは虫
 めくらのばあさんが鶏に話しかけてゐる日向
・たつた一人の女事務員として鉢つつじ
 たま/\たづねてくれて、なんにもないけどちしやなます(友に)
 もう春風の蛙がとんできた(再録)


   
       


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便

姿




サイレンが鐘が正しく私の時計も九時








 
 
 











 









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宿


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稿
 

 
 
 



 






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鹿
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老来なか/\に思ひ惑ふことが多くて、ます/\グウタラとなり、モノマヽサとなりつゝあります、どうでも少し歩いて来なければなりません。……






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 slow suicide  




   防府にて
・この家があつてあの家がなくなつてふる郷は青葉若葉
・青田はればれとまんなかの墓
・青草をふみ鳴らしつつ郵便やさん
   再録二句
・月からこぼれて草の葉の雨
・あほげば梅の実、ひよいともぐ
・ほろにがさもふるさとにしてふきのとう(追加)
   










 







寿


姿

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※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)
   
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退
殿








       








 七月一日

晴、つゝましくすなほな生活を誓ふ。
こゝろあらためて七月朔日の朝露を踏む

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 便

便
 
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竿
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稿












 



退



 













 






 





 





 












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槿

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草にてふてふがきてあそぶ其中一人















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※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)()槿

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   1987621251
5-86


2009715

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JIS X 0213

調