茶話
２・27
フランク・ハリスと云へば聞えた英国の文芸家だが、︵ハリスを英人だと言へば或あるひは憤おこり出すかも知れない、生れは愛アイ蘭ルランドで今は亜ア米メ利リ加カにゐるが、自分では巴パリ里ジヤ人ンの積りでゐるらしいから︶今度の戦争について、持前の皮肉な調子で、﹁独ドイ逸ツは屹きつ度と最後の独逸人となるまで戦ふだらう、露ロ西シ亜ア人もまた最後の露西亜人となるまで戦ふだらうが、唯英イギ吉リ利ス人は――さうさ、英吉利人は最後の仏フラ蘭ン西ス人がといふところまでは行やるに相違ない﹂と言つてゐる。流さす石がにハリスで、よく英吉利人を視みてゐる。
茶話
３・１
﹁吾われ等らは世界に唯たつた一つの健康を与へて呉くれる戦争を歌はうと思ふ。軍国主義、愛国心、アナアキストの捨すて鉢ばちな行ふる為まひ、人殺しの美しい思想、そしてまた婦人に対する侮さげ蔑すみ――かういふものを凡すべて歌ひたい。﹂――未来派の詩人マリネツチはこんな事を言つたが、他ほかの事は兎とに角かく、婦をん人なに対する侮さげ蔑すみを思はせるだけでも、戦争は吾々にとつて鉄剤同様一種の健康剤たるを失はない。
茶話
３・４
トルストイの﹃アンナ・カレニナ﹄の終りの章に多くの人が蜂小屋の近くで塞セル耳ビ維ア戦争の噂うはさをしてゐるところがある。その時或ある人が好戦論者を戒めるために普仏戦争の前アルフオンス・カアルの言つた言葉を引証してゐる。――﹁戦争が何どうでも避ける事が出来ないものならそれもよからう。だが、そんな場合には戦争論を唱へた新聞記者だけには是非とも一隊を組ませ、どこの戦いく闘さにも前衛としてそれを使ふ事にしたいものだ。﹂と言ふのだ。欧洲出兵論も誠に結構だが、どうかそんな場合には黒岩涙るい香かう君のやうな出兵論者は、誰よりも先に前衛の一人にんとして出掛けて貰もらひたいものだと思ふ。カタヴソウでは無いが、私はこの名誉ある選抜兵の後姿を想ふ毎ごとに、腹を抱へて吹き出さぬ訳に往ゆかない。
茶話
３・９
私の故く郷には瀬戸内海の海うみつ辺ばたで、ヂストマと懶なま惰けも漢のと国民党員の多い所だが、今度の総選挙では少し毛色の異ちがつた人をといふので、他よその県で余計者になつた男を担かつぎ込み、それに先輩や知人の紹介状を附くつ着つけてさも新人のやうに見せかけてゐる。ゴオゴリの﹃死しり霊やう﹄を読むと、名義だけは生きてゐるが、実は夙とつくに亡くなつてゐる農奴を買収し、遠い地方へ持ち込んで、そこで銀行へ抵か当たに入れて借金をする話が出てゐるが、今の選挙界の新人も一ちよ寸つとそれに似てゐる。
茶話
３・20
デイケンスは﹃ぴくゐつく・ぺえぱあす﹄のなかで、﹁被告の身にとつては人の好いい、福ふく々〴〵した、朝あさ餐めしを甘うまく食べた裁判官に出でく会はすといふ事が大だい切じだが、原告になつてみると、平い常つも不満足たらしい、腹の減つた裁判官を見つけるやうにしなくてはならない﹂と言つた。この頃ごろ議員候補者や、その運動者がぴし〳〵引ひつ張ぱられてゐるが、皆みんな有罪の判決を受けてゐる所を見ると、可あひ憎にくと腹の減つた、家うちでは夫めを婦とけ喧んく嘩わの絶たえ間まが無い裁判官が多いと見える。