女郎買の歌

石川啄木









 

     

 

 

 

 

     

 滿西()()()
 
潮なりの滿ちし遊廓くるわにかろ/″\と われ投げ入れしゴム輪の車
潮なりにいたくおびゆる神經を しづめかねつゝ女をば待つ
新内の遠く流れてゆきしあと 涙ながして女をおこす
といふやうな歌がある、潮鳴りの滿ちし遊廓といふと先づ洲崎あたりだらう、洲崎! 洲崎! 實にこの歌は洲崎遊廓へ女郎買ひに行つた歌だつたのだ。
寢入りたる女の身をば今一度 思へば夏の夜は白みけり
といふのがある
やはらかきこの心持明け方を 女にそむき一しきり寢る
といふのがある、若し夫れ
空黄色にぽうつとゆる翌朝の たゆき瞼をとぢてたゝずむ
宿廿

 
 
 

   


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底本:「啄木全集 第十卷」岩波書店
   1961(昭和36)年8月10日新装第1刷発行
初出:「東京朝日新聞」
   1910(明治43)年8月6日
入力:蒋龍
校正:小林繁雄
2009年8月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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