震災の前であった。白はく画がど堂うの三階で怪談会をやったことがあった。出席者は泉鏡花、喜多村緑ろく郎ろう、鈴木鼓こそ村ん、市川猿之助、松崎天民などで、蓮の葉に白い強こわ飯めしを乗せて出し、灯明は電灯を消して盆燈籠を点つけ、一方に高座を設けて、譚ものがたりをする者は皆その高座にあがった。 数人の怪異譚ものがたりがすむと、背広服を着た肥った男があがった。それは万まん朝ちょ報うほうの記者であった。 ﹁この話は、私の家の秘密で、公開を禁ぜられておりますが、もう時代もすぎましたから、話してもいいと思いますから話しますが、これは田中河内守を殺した話でありますが、それを殺した者は、私の祖父……﹂ と云いかけて詞ことばがもつれだした。一座の者はおやと思って記者の顔へ眼をやる間もなく、その記者は前のめりになって高座の下へ落ちたので、怪談会はしらけてしまって、未明までやるはずのものが、一人帰り二人帰りして、十二時頃には何だ人れもいなくなった。そして、その記者は脳のう溢いっ血けつのような病気で、三日ばかりして歿なくなった。これは市川猿之助の実話をそのまま。