妖女の舞踏する踏切
田中貢太郎
品川駅の近くに魔の踏切と云われている踏切がある。数年前、列車がその踏切にさしかかったところで、一方の闇から一人の青年がふらふらと線路の中へ入って来た。機関手は驚いて急停車してその青年を叱りつけた。
﹁前途のある青年が、何故そんなつまらんことをする﹂
すると、青年ははじめて夢から醒めたようになって、きょろきょろと四(あた)辺(り)を見まわしながら云った。
﹁それが不思議ですよ、ここまで来ると、このあたり一面に美麗な花が咲いてて、何とも云えない良い匂がするのです、それにそこにはな女がたくさんいて、それが何か唄いながら踊ってたのですが、それが私の方を見て、いっしょに踊らないかと云って招くものですから、ついその気になって、ふらふらと入ったのですよ﹂
底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日初版発行
底本の親本:「新怪談集 実話篇」改造社
1938(昭和13)年
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2010年10月20日作成
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