二人の仕事師が某ある夜ひ夜廻りに往っていると、すぐ眼の前でふうわりと青い火が燃えた。二人は驚いて手にしていた鳶とび口ぐちで、それを敲たたこうとすると、火の玉は吃びっ驚くりしたように向うの方へ往った。 二人は鳶口を揮ふりながら追っかけた。そして、数すう町ちょう往ったところで、その火の玉は唯とある巷ろじへ折れて、その突きあたりの家の櫺れん子じ窓からふわふわと入ってしまった。と、家の中から苦しそうな呻うめきが聞えて来た。それと同時に年とった女の声がした。 ﹁お爺とっさん、これお爺さん、何をそんなに魘うなされてるのだよ﹂ すると老人の声で、 ﹁ああ怕こわかった、乃おい公らが街を歩いてると、何をかんちがいしやがったのか、二人の仕事師が、だしぬけに鳶口を持って追っかけて来たのだから、命からがら逃げて来たのだよ﹂ と云った。