秋草と虫の音

若山牧水




 
 
 

 

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曼珠沙華いろ深きかも入江ゆくこれの小舟のうへより見れば
 東京の、三宅坂から濠越に見る宮城の塀の近くに唯だ一個所だけこの花の群つて咲くところのあるのを偶然見つけて、毎年それを見に行つたものだが、今でも咲くかどうかと、ふといま思ひ出された。東京の近郊にはこの花は少なかつた。相模野には非常に多い。

 蝦夷菊、これは畑の花だが、東京近郊には頻りに作らるゝ。厭味の花と見ればそれ、それを忘れてぼんやり見てをればこれまた秋のはじめのものである。手にとつては駄目、畑のまゝで見るべきである。

ひしひしと植ゑつめられし蝦夷菊の花ところどころ咲きほころべり
蝦夷菊の花畑のくろにかいかがみ美しみ見ればみな揺れてをる
蝦夷菊の花をいやしと言ふもいはぬも眼のかぎりなるえぞ菊の花


 彼岸花も水辺に多いが、みぞ萩もまたさうである。眼につかぬ花で、見てをればいかにも可憐である。
このあたり風のつめたき山かげに咲きてあざやけきみぞ萩の花
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つづらをりはるけき山路登るとて路に見てゆく竜胆の花
散れる葉のもみぢの色はまだせず埋めてぞをる竜胆の花を
さびしさよ落葉がくれに咲きてをる深山竜胆の濃むらさきの花
摘みとりて見ればいよいよむらさきの色の澄みたるりんだうの花
越ゆる人まれにしあれば石出でて荒き山路のりんだうの花
笹原の笹の葉かげに咲き出でて色あはつけきりんだうの花
 

椿椿


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わが越ゆる岡の路辺のすすきの穂まだ若ければ紅ふふみたり
 宿

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西



 

 

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使


 

 
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姿







底本:「日本の名随筆94 草」作品社
   1990(平成2)年8月25日第1刷発行
底本の親本:「若山牧水全集 第七巻」雄鶏社
   1958(昭和33)年11月
入力:増元弘信
校正:もりみつじゅんじ
2000年7月26日作成
2005年1月26日修正
青空文庫作成ファイル:
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