お庭の木の葉が、赤や菫すみれにそまったかとおもっていたら、一枚散り二枚落ちていって、お庭の木はみんな、裸はだ体かになった子供のように、寒そうに手をひろげて、つったっていました。
つづれさせさせ はやさむなるに
あの歌も、もう聞かれなくなりました。北の山の方から吹いてくる風が、子供部屋の小さい窓ガラスを、かたかたいわせたり、畑の唐もろこしの枯葉を、ざわざわゆすったり、実だけが真まっ黒くろくなって竹垣によりかかって立っている日ひま輪わり草そうをびっくりさせて、垣根の竹の頭で、ぴゅうぴゅうと、笛をならしたりしました。
﹁もう冬が来るぞい﹂
花子のおばあさんはそう言って、真綿のはいった袖なしを膝ひざのうえにかさねて、背中をまるくしました。
﹁おばあさん、冬はどこからくるの?﹂花子がたずねました。
﹁冬は北の方の山から来るわね。雁がんがさきぶれをして黒い車にのって来るといの﹂
﹁そうお。おばあさん、冬はなぜさむいの?﹂
﹁冬は北風にのって、銀の針をなげて通るからの﹂
﹁そうお。おばあさんは冬がお好き?﹂
﹁さればの、好きでもないし嫌いでもないわの。ただ寒いのにへいこうでの﹂
﹁そうお﹂
花子は、南の方の海に近い町に住んでいましたから、冬になると北の方の山国から、炭や薪まきをとりよせて、火鉢に火をいれたり、ストーブをたかねばならぬことを知っていました。おばあさんのために冬の用意をせねばならぬと、花子は考えました。そこで花子は薪と炭のとこへあてて手紙を書きました。
ことしもまた冬がちかくなりました。おばあさんが寒がります。どうぞはやく来て下さいね。
花子
北山薪炭様
北きた山やま薪しん炭たんは、花子の手紙を受取りました。
﹁そうだそうだ。もう冬だな、羽黒山に雪がおりたからな。花子さんのところへそろそろ行かずばなるまい﹂
北山薪炭はそう言って、山の炭焼小屋の中で、背のびをしました。
﹁どれ、ちょっくらいって、汽缶車の都合をきいて来ようか﹂
北山薪炭は、停車場へ出かけました。そこにはすばらしく大きな汽缶車がもくもくと黒い煙をはいているのを見かけました。
﹁汽缶車さん、ひとつおいらをのっけて、花子さんの町までいってくれないか﹂
北山薪炭が、そう言いました。
﹁いけねえ、いけねえ。今日はおめえ、知事さまをのっけて東京さへゆくだよ。そんな汚ねえ炭なんかのっけたら罰があたるよ﹂
汽缶車は、そう言って、けいきよくぶつぶつと出ていってしまいました。
すると、そこに中くらいの大おおきさの汽缶車が一ついました。北山薪炭はそばへよっていって、
﹁こんちは、君ひとつ花子さんの町までいって貰もらえないかね。花子さんはおいらを毎日待っていらっしゃるんだ﹂
と言いますと、いままで昼寝をしていた汽缶車は眼めをさまして、大儀そうに言うのでした。
﹁どうせ、遊んでいるんだからいってやってもいいが、なにかい、連中は大勢かい﹂
﹁そうさね、炭が三十俵に、薪まきが百束だ﹂
﹁そいつあいけねえ。そんな重いものを引っ張っていったら、脚も手も折れてしまわあ、せっかくだがお断りするよ﹂
﹁そんなことを言わないでいっておくれよ。花子さんが待ってるから﹂
﹁うるせえな、昼寝をしている方がよっぽど楽だからな﹂
そう言って、ぐうぐう眠ってしまいました。
そのとき、北きた山やま薪しん炭たんの前へ、ちいさいちいさい、玩おも具ちゃの汽缶車が出て来ました。
﹁薪炭さん、さっきからお話をきいていると、お気の毒ですね。ぼくがひとつやって見ましょうか﹂
そう呼びかけられて、見ると、とても小さい汽缶車です。
﹁実際困っているんだが、君いってくれますか。だけど見かけたところ、君はずいぶんちいさいね。これだけのものをひっぱってゆけるかね﹂
﹁ぼくもわからないが、なあに一生懸命やって見るよ﹂
﹁じゃあ、ひとつやって貰もらおうか。おれたちもせいぜい軽くのっかるからね﹂
玩具の汽缶車は、三十俵の炭と、百束の薪とを引っ張って、停車場を出発しました。停車場の近所の平ひら地ちを走るときは楽だったが、国境の山へかかると路みちは急になって、玩具の汽缶車は汗をだらだらながして、うんうん言っています。
﹁なんださか、こんなさか、なんださか、こんなさか﹂
元気の好よいかけごえばかりで、汽缶車はなかなか進めないのです。玩具の汽缶車は、もう一生懸命です。どうかしてはやく花子さんのところへ薪炭をおくりたいという一心です。
﹁なんださか、こんなさか﹂
﹁汽缶車さん、気の毒だね、おもたくて﹂
﹁なあに、もすこしですよ。なんださか、こんなさか﹂
それでもやっとこさ、峠のうえまで、ちいさな汽缶車が大きな薪炭を引きあげました。
﹁やれ、やれ、骨がおれましたね﹂
﹁これからはらくですよ、下くだ坂りざかですからね﹂
こんどはもうまるでらくらくと走ってゆきました。そしてすぐに花子さんの所へつきました。
﹁さあ、花子さん来ましたよ﹂
﹁はやく来られたわね﹂
そこで、花子さんも、おばあさんも、冬の用意が出来ました。