田舎からの手紙

田山録弥






 
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一月  日
S、   T、





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 ()()()※(「ころもへん+上」、第4水準2-88-9)※(「ころもへん+下」、第4水準2-88-10)
 



 
 
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 ※(「目+爭」、第3水準1-88-85)
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 低い丘陵の中に深雪しんせつに埋れて冬を過ぎて行くA村のさまは、その手紙を貰つて五六日経つた後にも、猶ほをり/\Kの頭に思ひ出された。
 不思議な縁のやうにも考へられゝば、また特色を持つた人達の住んでゐる村のやうにも考へられた。或は始終そこに住んでゐたなら、始終でなくとも一年にせめて一度位そこに往来する機会があつたなら、さう際立つてめづらしくも思はず、米三君や虎之助君のことなども、別に興味を惹かなかつたかも知れないのであるが、たまさかにをり/\触れて見るといふことが、いつもKの印象を呼びさまして、広い人生のあるあらはれをまざ/\と眼の前に見るやうな心持を起させると見える。Kは麹町の英語の塾での遭逢などを再び頭に繰返した。
 手紙はかんでわからないけれど栄輔君の家産を蕩尽したことにも、何か一つの物語がありさうにKには思はれた。また子供といふものを持たない栄輔君の上さんの身の上にも、深い涙が包まれてゐるやうにも思はれた。牟礼、芋川、倉井、殊に牟礼停車場附近でその旅の途中に見た酌婦達の生々とした生活、炬燵板の上に相面あひづらしてキヤツキヤツと騒ぐ白粉をつけた女、さうしたものと相連繋した物語があるのではないか。或は栄輔君は、地道な、常識的な、平凡な、堅いと言はれた栄輔君は、今の年になつて、そして始めて、米三君や虎之助君の体の中に流れた血の逆流して来たのを感じたのではないか。金の番人として、親から子へ、またその子から孫へといふ、平凡なリズムを踏むことをつまらないと思つて来たのではないか。ことに、子供といふ、ものゝ味を知らない身の上であつて見れば、そのKの想像も、決して理由のない想像ではないのである。
 誰が幸福なのか、誰が不幸なのか、また誰が天才なのか、誰が常識なのかさういふことは一概に簡単に言つて片附けて了ふことは出来ない。従つて米三君の死も、虎之助君の死も単に不幸だと言つて了ふことは出来ない。一生立つて見なければわからない。完全にすぎ去つて了つて見なければわからない。現に幸福の人の随一と言はれた栄輔君だつて、今になつては何うなつて行くかわからない身の上になつたではないか。手紙をよこした少年乃至その少年達だとて、矢張さうだ。不思議な人生だ。悠々とした人生だ。
『少年達に幸福あれ――』Kはかう思つて、再びその雪に埋れた山村を頭に描いた。





底本:「定本 花袋全集 第二十二巻」臨川書店
   1995(平成7)年2月10日発行
底本の親本:「百日紅」近代名著文庫刊行会
   1922(大正11)年12月18日発行
初出:「新小説 第二十三年第二号」
   1918(大正7)年2月1日発行
入力:tatsuki
校正:津村田悟
2019年7月30日作成
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