『Out of the East(「東の国から」)』(1895・明治28年)所収。熊本第2の家(現・坪井2丁目)を舞台としていると思われる。作者自身の注記によると1894(明治27)年の秋に書かれた。 熊本・五高で教鞭を執っているハーンの元を、松江中学校時代のかつての教え子が訪れるが、それは軍人となった彼の暇乞いのためであった。久しぶりに再会した教え子との懐かしい会話が続くが、やはり生き死にの話題へと向かう。教え子の、そして日本人の宗教観や死生観をめぐって熱心にやりとりが続く。彼は男子の本懐を語るが、ハーンは情としてはよく分からない。 訪問からしばらく経ったある日の地元新聞紙には……。若者たちの死をも厭わぬ純朴すぎる心情、日本人の死とその陰画である生の観念、戦争や時代の風潮は――おびただしい人びとの運命を否応なく死の渦巻きへと巻き込んでゆくサイクロンのようである。その背後には人びとを操る美意識、信仰・輪廻観、教育・軍隊、それに制度・社会のそれぞれの言説があり、それはまた「東の国」に構築されつつあるシステムそのものではないのか……。このような想いが教え子の行く末に対する教師としての思いやりや気掛かりとともに去来する。 同じく『死生に関するいくつかの断想 (BITS OF LIFE AND DEATH) 』第6話で語られる、日本人の持つ「鋼鉄のように固い原始的な粘土」を連想させるようでもあり、平明な会話文が主であるものの、無常や不条理な余韻が残る作品である。(林田清明)
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