銀河のロマンス

THE ROMANCE OF THE MILKY WAY

(「天の河縁起」「天の川綺譚」)

小泉八雲 Lafcadio Hearn

林田清明訳




 

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 西西姿

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 西()()1()()()()

 

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3



 ()()()()西
 調4
 西


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 ()()()()殿
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 使使西
 


  
  









 

 使
 

 

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若ければ
道行き知らじ
まひはせむ
黄泉したへ使つかひ
負ひて通らせ   (905)
使

 

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 ()()()()()()()使

 便

 天の川
相向き立ちて
 我が恋ひし
君来ますなり
紐解きけな   (1518)
〔天の川に互いに向かい立って、ここで会うのを今か今かと待っている。恋い慕うあなたがもう来られている。……衣の紐を解くのももうきのようだ(7)

 久方の(8)
天の川瀬に
 舟浮けて
今夜か君が
 我がり来まさむ   (1519)
〔永遠の天の川瀬に舟を浮かべて、今宵こそは私の元にお出でになるだろう〕

 風雲は
二つの岸に
 通へども
我が遠妻の
ことぞ通はぬ   (1521)
〔風や雲は天の川のこちらと向こうの岸を通って行くけれど私の遠い妻の言葉は通わない〕

 つぶて(9)にも
投げ越しつべき
 天の川
隔てればかも
あまたすべなき   (1522)
〔小石を投げれば向こう岸に今にも届きそうなのに、天の川であの方と隔てられているので、ああ(秋を除いては)会うことなど望みようもありません〕

 秋風の
吹きにし日より
 いつしかと
我が待ち恋ひし
君ぞ来ませる   (1523)
〔秋風が吹いた日から、いつかいつかと心待ちにしていたあの方がとうとうやって来られました〕

 天の川
いと川波は
 立たねども
伺候さもらひ難し
近きこの瀬を   (1524)
〔天の川の波はそれほど立ってもおらず、また近い瀬なのに渡って逢瀬することもまだできないのです〕

 袖振らば
見も交しつべく
 近けども
渡るすべなし
秋にしあらねば   (1525)
〔(長い)袖を振ればあなたが見えるほど近いのに、まだ秋ではないので川を渡るすべがありません〕

 かげろいの(e)
ほのかに見えて
 別れなば
もとなや恋ひむ
逢ふ時までは   (1526)
〔玉の輝きの(底文では、かげろう(10)を見かける)ようにほんのわずかにお逢いして別れるのならば、来年の七夕まで無性に恋しくてたまらないと思う事でしょう〕

 彦星の
妻迎へ舟
 漕ぎ出らし
天の川原に
霧の立てるは   (1527)
〔どうやら牽牛が妻を迎える舟を漕ぎ出しているようだ。天の川原に(櫓の雫のため)霧が立ちのぼっているから〕

 霞立つ
天の川原に
 君待つと
い行き帰るに
の裾濡れぬ   (1528)
〔霞が立っている天の川原であなたを待って川原を行ったり来たりしているうちに、裳のすそが濡れてしまいました〕

 天の川
浮津の波音(f)
 騒くなり
我が待つ君し
舟出すらしも   (1529)
〔天の川に浮かぶ舟着き場あたりの波音が騒がしくなっています。私の待ち焦がれるあの方が舟を漕ぎ出しになったのでしょう〕

 織女たなばた
袖継ぐ宵の
 暁は(g)
川瀬のたづ
鳴かずともよし   (1545)
〔織女が牽牛と袖を交わして寝る夜は曙まで浅瀬の鶴は鳴かずともよい(11)

 天の川
霧立ちわたる
 今日今日と
我が待つ君し
舟出すらしも   (1765)
〔天の川に霧が立ち込めている……今日か今日かとわたしが心待ちにしているあの方は舟をお出しになったらしい〕

 天の川
安の渡りに
 舟浮けて
我が立ち待つと(h)
妹に告げこそ   (2000)
〔天の川の安の渡しで舟を浮かべて私は立って待っている。ここであなた(12)を待っていると織女に伝えておくれ〕

 大空ゆ
通ふ我れすら
 汝がゆゑに
天の川道かわじ
なづみてぞ来し   (2001)
〔(星の神として)大空を自由に行き交う私ですが、織姫よ、貴方のためにこうして天の川をやっとの思いで渡ってきたのですよ〕

 八千桙やちほこ
神の御代より
 ともし妻
人知りにけり
継ぎてし思へば   (2002)
〔遠く神代(13)の昔から七夕の日にしか逢えない人は私の密かな妻だった(14)が、今では、私が恋い慕っていることから人々に語り継がれて知れ渡ることになった〕

天地あめつち
別れし時ゆ
己が妻
しかぞにある
秋待つ我れは   (2005)
〔天と地とが別れた古えの時からあの人は私の妻。――けれど妻と一緒にいるには、いつも私はこうして秋を待たねばならない(15)

 我が恋ふる(i)
丹のほの面わ
 こよひもか
天の川原に
石枕まかむ   (2003)
〔私の愛しい妻はほほを紅に染めて(16)、私が降りてゆく今宵も、天の川の川原で石を枕にして寝ているだろうか〕

 天の川
水蔭草の
 秋風に
なびかふ見れば
時は来にけり   (2013)
〔天の川の水蔭に生えている草が秋風に靡いている。ついに逢うべき時がきたのだなぁ〕

 我が背子に
うら恋ひ居れば
 天の川
夜舟漕ぐなる(j)
かじの音聞こゆ   (2015)
〔早くあの人に逢いたいと待ち焦がれていると(17)、夜舟を漕ぐ櫓の音が天の川から聞こえる。〕

 遠妻と
手枕たまくらはし(k)
 寝たる夜は
鶏がねな鳴き
明けば明けぬとも   (2021)
〔遠くにいた妻と手枕(18)をして寝ている夜には、夜が明けるとしても鶏よ鳴くな、鳴かないで〕

 万代よろづよ
たづさはり居て
 相見とも
思ひ過ぐべき
恋にあらなくに   (2024)
〔永遠に手に手を取り、顔と顔を合わせていても、私たちの互いの想いに決して終わりはない(なぜに天は私たちを分かたれるのか?)〕

 我がためと
織女たなばたつめ
 そのやどに
おれ白栲しろたへ
縫いてけむかも(l)   (2027)
〔棚機姫がその家で私のために織ってくれているという白栲布はもう縫われただろうか〕

 白雲の
五百重いほへ(m)
 隠り遠くとも
宵さらず見む
妹があたりは   (2026)
〔あなたが遠く、幾重もの白い雲で見えなくとも、夜毎に見ます、貴方が住むあたりを〕

 秋されば
川霧立てる
 天の川
川に向き居て
恋ふる(19)夜ぞ多き(n)   (2030)
〔秋が来たので、天の川には霧が立っている。私は川に向かって(長いこと)、恋しい貴方を待つ夜がなんと多いことでしょう〕

 一年ひととせ
七日の夜のみ
 逢ふ人の
恋も過ぎねば(o)
夜は更けゆくも   (2032)
〔一年にわずか七夕の夜だけ逢う人もいます――ああ、恋しい胸の内を互いに打ち明ける(20)間もなく夜は更けていくのだなぁ〕

 年の恋
今夜尽して
 明日よりは
常のごとくや
我が恋ひ居らむ   (2037)
〔一年に一度の逢瀬も今夜で終わります。明日からはまたいつものように貴方を恋い慕って過ごさねばなりません〕

 彦星と
織女たなばたつめ
 今夜逢ふ
天の川門かわと
波立つなゆめ   (2040)
〔二人が互いに逢う今夜――天の川の渡し場に荒い波よ、ゆめにも立たないでおくれ〕

 秋風の
吹きただよはす
 白雲は
織女たなばたつめ
天つ領巾ひれかも   (2041)
〔ああ、秋風が吹き漂わせているあの白い雲は、織姫の天つ領巾(スカーフ)(21)でしょうか〕

 しばしばも
相見ぬ君を
 天の川
舟出ふなではやせよ
夜の更けぬ間に   (2042)
〔たびたびは逢えない貴方です。夜が更ける前に早く天の川に船出して下さい〕

 天の川
霧立ちわたり
 彦星の
かじの音聞こゆ
夜の更けゆけば   (2044)
〔夜も更けゆき、天の川に霧が立ち渡っています。すると彦星が漕ぐ楫の音(22)が聞こえます〕

 この夕べ
降りくる雨は
 彦星の
早漕ぐ舟の
櫂の散りかも   (2052)
〔この夕べに降る雨は、彦星が急いで漕いでいる舟の櫂の雫なのでしょうか〕

 風吹きて
川波立ちぬ
 引き船に
渡りも来ませ
夜の更けぬ間に   (2054)
〔風が吹いて川波も高くなってきました――今夜は、夜が更けぬ間に、引き船に(23)に乗って渡ってきて下さい〕

 明日よりは
我が玉床を(p)
 うち掃ひ
君とねずて
ひとりかも寝む   (2050)
〔明日からは、ああ!この寝床を片付けて(きれいにしても)、また独りで寝なければならないのですね〕

 天の川
川のさやけ清し
 彦星の
早漕ぐ舟の(q)
波のさわきか   (2047)
〔天の川では川音が清々しく聞こえます。あれは彦星がこの秋に急いで漕ぎ立てる波のざわめきでしょうか〕

 天の川
波は立つとも
 我が舟は
いざ漕ぎ出でむ
夜の更けぬ間に   (2059)
〔天の川の波が高くなろうとも、夜が更けぬ間に私はこの舟でさあ漕ぎ出すのだ〕

 いにしへに(r)
織りてしはた
 このゆうへ
衣に縫ひて
君待つ我れを   (2064)
〔ずっと前から織ってきた布を今夜はもう衣に縫い上げました――なのにまだ貴方を待たねばならないの?〕

 天の川
瀬を早みかも
 ぬばたまの
夜は更けにつつ
逢はぬ彦星   (2076)
〔天の川の流れが速くて渡れないのでしょうか? 夜(24)は刻々と更けていくのに――まだ彦星は来ませぬ〕

 渡し守
舟早渡せ
 一年ひととせ
ふたたび通ふ
君にあらなくに   (2077)
〔渡し守よ、早く舟を渡らせたまえ!――あの方は年に一度だけ、二度は来ない人だから!〕

 秋風の
吹きにし日より
 天の川
瀬に出で立ちて
待つと告げこそ   (2083)
〔秋風が吹いた日から天の川の浅瀬に出て――貴方を待っていますと、彦星に伝えてよ〕

 織女たなばた
舟乗りすらし
 まそ鏡
清き月夜に
雲立ちわたる   (3900)
()()25

 
 西()()()沿()()





1morning glory
2
3  
4
57
6Pueraria thunbergiana. yudzu-leaves12 Houghton Mifflin kudzu-leaves
7西
8A Grammar of the Japanese Written Language, 1871
9
10()()
11
12
13
14
15
16
17
18jewel
19
20
21
22
23
24the berry-black night西
25宿西




2426  Isshi

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1THE ROMANCE OF THE MILKEY WAY, AND OTHER STUDIES AND STORIES, by Lafcadio Hearn. Houghton Mifflin and Co., Boston and New York 1905.
 525<https://archive.org/details/romanceofmilkywa00hear>
2Lafcadio Hearn, Gleanings in Buddha-fields and, The romance of the Milky Way: The Writings of Lafcadio Hearn in sixteen volumes Large-paper ed (1973, Rinsen Book)Houghton Mifflin 





翻訳の底本:The Atlantic Monthly, vol. 96, pp. 238- 250 (1906).
   上記の翻訳底本は著作権が失効しています。
翻訳者:林田清明
   2018(平成30)年3月20日初訳
   2023(令和5)年5月30日補訂
   2023(令和5)年9月26日公開
入力:林田清明
2023年8月29日作成
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