追憶

宮本百合子




 ()
 湿()調
 姿()()
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 ()()
「まあよくお帰りになった。

 
 
 
 便
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 鹿
 
 
 
「ヤーイ、ヤーイ、チャンコロヤイ
 男の癖に髪を長くして居やがらあ。

 
 
 
 
 
 
 
「何て好んだろう。
 まあほんとに奇麗にそろって光って居るんだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 調
「ほんとうにいやな人なのよ、
 私憎らしくって仕様がないわ。

 
 
 
 ()
 
 
 
 
 

 
 
 
 

 
 
 
 
「お叔父ちゃん、
 随分いけないわねえ此那に御本よごして……
 先生に叱られない?
 
 
 
 
 殿
 
 
「神様御免下さい、
 もう致しません。


 
 
 
 ()
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
「おようか。


 
 
 
「有難う、
 ほんとにありがとうよ。
 何よりも嬉しい。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 Babel 
 調
 
 
「あー高くなったねえ、
 今度は何か上げ様、
 石かえ、
 聞えませんよそいじゃあ駄目だ。
等と叫んだり、自分が蛇になって二人の弟のアダムとイブに、
「貴女そりゃあ美味しいのよ、
 おあがりなさい。
 神様がけちんぼうだから食べるなっておっしゃるのよ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 ()
 
 綿

 
「余程弱ったものと見えて今日は来る道に目が廻って仕様がなかった。
 高等学校の角で三十分もしゃがんで居た。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 調
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ※(「涯のつくり」、第3水準1-14-82)
 ()※(「涯のつくり」、第3水準1-14-82)
 
 ※(「涯のつくり」、第3水準1-14-82)
 
 
 
 姿
 調
 
 ()
 
 
「帰りましょうよ、
 ね叔父ちゃん、
 帰りましょうってば。

 ※(「涯のつくり」、第3水準1-14-82)
 
 
 
 
 

 
 
 ()()
 
「富田さん富田さん

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 使
 
 
 
 
「嫂さん。
と投げつける様に叫んだ。
 苦しくて苦しくて堪らない息を吐くと一緒に夢中で出た様なその声は太く短くかすれて居た。
「え?
 え? 何ですか。
 
 
 
「まあお前は……
 さあ彼方へ行って寝て居ましょう。
と云いながら母は元の部屋まで送って来て、パタパタとたたきつけると、
「今御用がすんだらすぐ来ますよ。

 
 
 
 
「お叔父ちゃんが死んだんだって?
 死ぬと云う事のはっきり分らない私は、勿論非常な悲しみも感じ得られなかった。
「おとといまで彼那にお話をして下すったお叔父ちゃんが死んじゃったって?
 どんなんなったの。
 え?
 こわい事?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「其処へ入っておいで。
 見ちゃあいけませんよ、
 きっとですよ。

 ()
 
「死んだお叔父ちゃんが来たのだ。
 
 
 
 
 
「ほんとにお叔父ちゃんは死んじゃった。
と云う絶望的な、もうどうしても取り返しのつかない心持がはっきりし出して、私は大人の様な静かなそれで居て胸を掻きむしられる様に苦しい涙をこぼしたのであった。
 その次の日から朝、お水と塩を枕元の机に供えるのが私の役目になった。
 朝になると私は目が醒め次第暗い叔父の枕元に新らしいそれ等の供物を並べた。
 生きて居る叔父に食べ物を並べてあげる通りどこかでお礼を云われて居る様な彼の大きな掌が、
「ありがとうよ、
 好い子に御なり。
と頭を叩いて呉れる様に感じて居た。
 そして、常に叔父の云って居た事が間違わなければ、好い事をした人は好い所へ行く筈だから、
 お叔父ちゃんも今にどっか好い所へ行くのだろう。


 
 
 
「百合ちゃん一寸おいで、
 好いものを見せてあげ様。
と手招きをした。
 私は何の気なしに、
「なあに。
と立って行くと屏風の中に入れられた。
 其処には厚い布団に寝かされて大変背の高くなった叔父の体が在ったけれ共別に変な感じも持たずにその人の後に居ると、顔の辺りに掛けてある白い布をめくりながら、
 御覧。
と云って身をねじ向けた。
 何だろうと思ってのり出した私は、
 アッ、

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
「何と御止めしても御聞きなさらずに運動をなさったので……

 
 
 
 
 
 
 鹿鹿
 
 
 
 
 ()
 
 
 
 





 
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200884

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