一
むかし神かみ代よのころに、大おお国くに主ぬし命のみことの幸さき魂みたま、奇くし魂みたまの神かみさまとして、この国くにへ渡わたっておいでになった大おお物もの主ぬし命のみことは、後のちに大やま和との国くにの三み輪わの山におまつられになりました。さて、その山を三みわ輪や山まというについて、こういうお話はなしが伝つたわっています。
ある時とき大やま和との国くにに、活いく玉たま依より姫ひめという大たいそう美うつくしいお姫ひめさまがありました。
この活いく玉たま依より姫ひめの所ところへ、ふとしたことから、毎まい晩ばんのように、大たいそう気けだ高かいりっぱな若わか者ものが、いつどこから来くるともなくたずねて来きました。そのうちに、とうとう若わか者ものは、お姫ひめさまのお婿むこさんになりました。
間まもなくお姫ひめさまには子こど供もが生うまれそうになりました。ところで、そのお婿むこさんははじめから、夜よるおそく来きては、夜よの明あけないうちに、いつ帰かえるともなく帰かえってしまうので、お姫ひめさまのほかには、だれもその顔かおを見み知しったものもありませんし、どこのだれだということは、お姫ひめさますら知しりませんでした。
二
お姫ひめさまのおとうさまとおかあさまは、ふしぎに思おもって、どうかしてそのお婿むこさんの正しょ体うたいを見みと届どけたいと思おもいました。そこである日お姫ひめさまに向むかって、
﹁今こん夜やお婿むこさんの来くる前まえに、部へ屋やにいっぱい赤あか土つちをまいてお置おき。それから麻あさ糸いとを針はりにとおしておいて、お婿むこさんの帰かえるとき、そっと着きも物ののすそにさしてお置おき。﹂
といいつけました。
お姫ひめさまはその晩ばんいいつけられたとおり、大きな麻あさ糸いとの玉たまをお婿むこさんの着きも物ののすそに縫ぬいつけておきました。
あくる朝あさ見みると、麻あさ糸いとの先さきは針はりがついたまま戸との鍵かぎ穴あなを抜ぬけて、外そとへ出ていました。そして麻あさ糸いとが引ひかれるにつれて、糸いと巻まきはくるくるとほぐれて、もう部へ屋やの中にはたった三みまわり、輪わになっただけしか、糸いとは残のこっていませんでした。
お婿むこさんが戸との鍵かぎ穴あなから出て行ったことが、これで分わかりましたから、お姫ひめさまはその糸いとをたぐりたぐり、どこまでもずんずん行ってみますと、糸いとはおしまいに三みわ輪や山まのお社やしろの中に入はいって、そこで止とまっておりました。
それではじめてお婿むこさんが大おお物もの主ぬし命のみことでいらっしゃったことが分わかりました。そして糸いとが三み輪わあとに残のこっていたので、その山をも三みわ輪や山まと呼よぶようになりました。