―― ひ？［＃「 ひ？」はママ］――燒土層を成す――土器製造所か――土器の葢――貝塚曲玉の［＃「貝塚曲玉の」は底本では「貝 曲玉の」］一種――
馬まご籠めの貝かひ塚づかと根ねが方た﹇＃ルビの﹁ねがた﹂は底本では﹁ねかた﹂﹈の貝かひ塚づかとは、池いけ上がみ街かい道だうを挾はさんで兩りや方うはうに有ある。併しかし、 たい概がい﹇＃﹁ たい概がい﹂はママ﹈我われ々〳〵はそれを馬まご籠めの名なの下もとに一括くわつして居ゐる。別べつに理りゆ由うは無ないが、最さい初しよは根ねが方たの貝かひ塚づかをも、馬まご籠めだと信しんじて居ゐたからで。地ちめ名いひ表やうには根ねが方たを目めが方たとしてある爲ために、他たを探さがして居ゐて、根ねが方たを過すぎながら、それとは知しらなかつたのだ。
余よの最さい初しよに此この地ちを探たん檢けんしたのは、三十五年ねんの十二月ぐわつ二十六日にちであつた。それから殆ほとんど毎まい週しう一度どは、表ひや面うめ採んさ集いしふに通かよつて居ゐた。茶ちや店みせの老らう人じん夫ふう婦ふとは懇こん意いに成なつて﹃旦だん那な又また石いし拾ひろひですか。然さう始しじ終う見みえては、既もう有ありますまい﹄と笑わらはれる位くらゐにまでなつた。
打だせ石き斧ふ、磨ませ石き斧ふ、石せき鏃ぞく、把とつ手て、破はへ片ん、土どび瓶んの口くち、そんな物ものは、どの位くらゐ數かず多おほく採さい集しふしたか知しれぬが、未まだ發はつ掘くつをして見みた事ことが無ないので、茶ちや店みせの息むす子こを介かいして、地ぢぬ主しの政まさ右うゑ衞も門んといふ人ひとを説とき、其その人ひとの持もち地ちを發はつ掘くつする事ことと成なつた。
三十七年ねん九月ぐわつ十四日か、幻げん翁おう望ぼう生せいの二ふた人りと共ともに余よは馬まご籠めに行ゆき、茶ちや店みせに荷にも物つや着きも物のを預あづけて置おき、息むす子こを人にん夫ぷに頼たのんで、遺ゐせ跡きに向むかつた。
それは根ねが方た地ぢで、街かい道だうから南なん面めんし、右みぎ手てに小こみ徑ちがある、それを曲まがつてから、又また右みぎ手ての畑はたが目もく的てき地ちだ。
破はへ片んは出でるけれど、如ど何うも思おもはしい物ものがなく、漸やうやく底そこ拔ぬけ土ど器きを一ひと箇つ余よが得えた位くらゐで、此この日ひは引ひき揚あげた。
同どう月げつ二十三日にちには幻げん望ぼう二子しの他ほか、玄げん川せん子しを加くはへて四人にんで掘ほつた。今こん度どは、小こみ徑ちの左さは方うの緩くわ斜んし面やめんを成なす芋いも畑ばたけである。
幻げん翁おうは土ど器きを二三箇こ出だした。
第四圖︵武藏馬籠︶ イ︵土器蓋︶ ロ︵朱塗土器蓋︶ ハ︵磨石斧︶ ニ︵曲玉︶ ホ︵石匙︶ 余よは大おほ把とつ手ての破はへ片んと、ボロ〳〵に破こ壞はれかゝつた土ど器き一ひと箇つと、小せう磨ませ石き斧ふ一箇こ︵第四圖ハ參照︶とを得えた。 玄げん子し朱しゆ塗ぬり土ど器きの蓋ふた︵第四圖ロ參照︶を、望ぼう生せいも亦また土ど器きの蓋ふたを得えた。 其そ所こへ活くわ東つとう花くわ舟しう二子しが應おう援えんとして遣やつて來きたので、同どう勢ぜい六人にんと成なり、實じつに賑にぎやかな發はつ掘くつであつた。 同どう月げつ二十八日にちには、幻げん翁おう玄げん子しと余よとの三人にんで出で掛かけた。今け日ふは馬まご籠めが方たで街かい道だうを左ひだりに曲まがつた小こみ徑ちの左ひだ手りてで、地ぢぬ主しも異ことなるのである。 此こ所ゝは先せん年ねん、幻げん翁おう﹇＃ルビの﹁げんおう﹂は底本では﹁げん う﹂﹈が、香こう爐ろが形た其その他たの大だい珍ちん品ぴん﹇＃ルビの﹁だいちんぴん﹂は底本では﹁だいちいぴん﹂﹈を出だした遺ゐせ跡きの續つゞきなので、如い何かにも有ゆう望ぼうらしく考かんがへられたのである。 人にん夫ぷとして茶ちや店みせの息むす子こが鍬くわを取とつたが、間まもなく石いし匙さじを掘ほり出だした。︵第四圖ホ參照︶ 貝かひ層そうは極きはめて淺あさいが、其その下したに燒やけ土つちの層そうが有あつて、其その中なかに少すくなからず破はへ片んがある。幻げん翁おうの言げんに由よると、香こう爐ろが形たの出でた層さうと同どう一いつだといふ。 今け日ふは香こう爐ろが形た以いじ上やうの珍ちん品ぴんを掘ほり出だしたいと力りき味みかへつて居ゐると、余よは磨ませ石き斧ふを其その燒やけ土つちの中なかから掘ほり出だした。 更さらに猛もう進しんしたが、如ど何うも思おもはしくなく、却かへつて玄げん子しの方はうが成せい功かうして、鍋なべ形がたの側そく面めんに小せうなる紐ひも通とほしのある大だい土ど器きが、殆ほとんど完くわ全んぜんで出でた。 此この燒やけ土つちに就ついて、武たけ内うち桂けい舟しう畫ぐわ伯はくの説せつがある。氏しは陶たう器きつ通うの立たち場ばからして考かんがへて見みたので、土つちが燒やけて層さうを成なすまで火ひを焚たくといふのは、容よう易いでない。餘よほ程どの大おほ火びを焚たかなければ、馬まご籠めにて見みたる如ごとき跡あとを遺のこすものでない。竈かまどとか、爐ろとか、それ位くらゐの火ひの爲ために出で來きたのでは恐おそらくあるまい。土どき器せい製ざ造うの大おほ窯がまの跡あとかなんぞではないだらうかといふのである。 或あるひは然さうかも知しれぬ。 同おなじ式しき、同おなじ紋もん。瓜うりを二ふたツの類るゐ型けい土ど器きが各かく地ちから出でるのである。それ等らの數すうから考かんがへても、大おほ仕じか掛けを以もつて土ど器きを製せい造ざうしたと云いへる。 石せき器きじ時だ代いに現げん今こんの如ごとき陶たう器きが窯まを造つくつて、其そ所こで土ど器きを燒やいたか否いなか、それは未まだ輕かる々〴〵しく言いひ切きれぬが、馬まご籠めに於おける燒やけ土つち層さうの廣くわ大うだいなるを見みて、然さうして桂けい舟しう畫ぐわ伯はくの説せつを聽きいて見みると、此この大おほ仕じか掛けの土どき器せい製ざ造うといふ事ことに注ちう意いを爲せす﹇＃﹁爲す﹂はママ﹈には居ゐられぬのである。 十月ぐわつ九日か、此この日ひは單たん獨どくで行ゆき、第だい三回くわ目いめ發はつ掘くつの場ばし所よより二三間けん下したの大だん根こん畑ばたけ﹇＃ルビの﹁だんこんばたけ﹂はママ﹈を發はつ掘くつして、第だい四圖づイの如ごとき土ど器きの蓋ふたを得えた。 土ど器きにキツチリ合あつた儘まゝで蓋ふたは未まだ發はつ見けんされて居をらぬ。實みは實み、蓋ふたは蓋ふたとして出でて居ゐるが、形けい式しきから考かんがへても、如ど何うしても土ど器きの蓋ふたでなければならぬ物ものが各かく所じよから出でて居ゐる。 蓋ふたの突つま起みに就ついては、中ちう央わうに一ひと箇つの突つま起みを有ゆうするのと、二ふた箇つの突つま起みを有ゆうするのと、二ふた箇つの突つま起みが上じや部うぶに於おいて合がつし居ゐるのと、大だい概がい﹇＃ルビの﹁だいがい﹂はママ﹈此この三種しゆに區くべ別つする事ことが出で來きると思おもふ。余よの發はつ見けんしたのは此この三種しゆの例れい外ぐわいで、突つま起みの無ないのである。其その代かはり、兩りや端うたんに二ふた箇つづ宛ゞ﹇＃ルビの﹁ふたつづゞ﹂はママ﹈の小せう孔こうが穿うがつてある。紐ひもに類るゐした物ものを通とほして、それを抓つまむ樣やうにしたのかも知しれぬ。︵此この類るゐ品ひん、たしか福ふく島しま縣けん下か新しん地ちか貝ひづ塚かから出でて居をりは爲せぬか︶ 其その後のち又また一回くわい、此こ所ゝを掘ほつたが、格かく別べつの物ものは出でなかつた。發はつ掘くつはそれ切きりであるが、表ひや面うめ採んさ集いしふにはそれからも度たび々〴〵行ゆつた。 三十九年ねん五月ぐわつ十九日にちに行ゆつた時ときには、美びれ麗いなる貝かひ塚づか曲まが玉たまの一種しゆを︵第四圖ニ參照︶表ひや面うめんで得えた。 それだから、如ど何うしても馬まご籠めは捨すてられぬ。 其その忘わすれ難がたき味あぢに引ひかされて、行ゆく事ことは行ゆくが――行ゆく度たびに思おも出ひだしては、歸かへ途りがけに、つい、泣なかされる。――いつも歸かへる時ときは日ひぐ暮れになる。然さうして失しつ敗ぱいでもして、一ひと人り寂さびしく歩あるいて居ゐると、あゝ、あの時とき、二ふた人りつ連れ﹇＃ルビの﹁ふたりつれ﹂はママ﹈で後あとから來きた活くわ東つとうと花くわ舟しうと、あゝ、二ふた人りと共も死しんで了しまつた。茶ちや店みせの息むす子こも能よく忠ちう實じつに働はたらいて呉くれたが、あれも死しんだ。 這こんな事ことを考かんがへ出だした時ときには、仕しか方たが無ないので――併しかし、三千年ねん前ぜんの石せき器きじ時だ代い住じう民みんは、今こん日にちまでも生せい存そん﹇＃ルビの﹁せいそん﹂はママ﹈して我われ等らと語かたる――と云いつた樣やうな事ことを思おも浮ひうかべて、強しひて涙なみだを紛まぎらすのである。
第四圖︵武藏馬籠︶ イ︵土器蓋︶ ロ︵朱塗土器蓋︶ ハ︵磨石斧︶ ニ︵曲玉︶ ホ︵石匙︶ 余よは大おほ把とつ手ての破はへ片んと、ボロ〳〵に破こ壞はれかゝつた土ど器き一ひと箇つと、小せう磨ませ石き斧ふ一箇こ︵第四圖ハ參照︶とを得えた。 玄げん子し朱しゆ塗ぬり土ど器きの蓋ふた︵第四圖ロ參照︶を、望ぼう生せいも亦また土ど器きの蓋ふたを得えた。 其そ所こへ活くわ東つとう花くわ舟しう二子しが應おう援えんとして遣やつて來きたので、同どう勢ぜい六人にんと成なり、實じつに賑にぎやかな發はつ掘くつであつた。 同どう月げつ二十八日にちには、幻げん翁おう玄げん子しと余よとの三人にんで出で掛かけた。今け日ふは馬まご籠めが方たで街かい道だうを左ひだりに曲まがつた小こみ徑ちの左ひだ手りてで、地ぢぬ主しも異ことなるのである。 此こ所ゝは先せん年ねん、幻げん翁おう﹇＃ルビの﹁げんおう﹂は底本では﹁げん う﹂﹈が、香こう爐ろが形た其その他たの大だい珍ちん品ぴん﹇＃ルビの﹁だいちんぴん﹂は底本では﹁だいちいぴん﹂﹈を出だした遺ゐせ跡きの續つゞきなので、如い何かにも有ゆう望ぼうらしく考かんがへられたのである。 人にん夫ぷとして茶ちや店みせの息むす子こが鍬くわを取とつたが、間まもなく石いし匙さじを掘ほり出だした。︵第四圖ホ參照︶ 貝かひ層そうは極きはめて淺あさいが、其その下したに燒やけ土つちの層そうが有あつて、其その中なかに少すくなからず破はへ片んがある。幻げん翁おうの言げんに由よると、香こう爐ろが形たの出でた層さうと同どう一いつだといふ。 今け日ふは香こう爐ろが形た以いじ上やうの珍ちん品ぴんを掘ほり出だしたいと力りき味みかへつて居ゐると、余よは磨ませ石き斧ふを其その燒やけ土つちの中なかから掘ほり出だした。 更さらに猛もう進しんしたが、如ど何うも思おもはしくなく、却かへつて玄げん子しの方はうが成せい功かうして、鍋なべ形がたの側そく面めんに小せうなる紐ひも通とほしのある大だい土ど器きが、殆ほとんど完くわ全んぜんで出でた。 此この燒やけ土つちに就ついて、武たけ内うち桂けい舟しう畫ぐわ伯はくの説せつがある。氏しは陶たう器きつ通うの立たち場ばからして考かんがへて見みたので、土つちが燒やけて層さうを成なすまで火ひを焚たくといふのは、容よう易いでない。餘よほ程どの大おほ火びを焚たかなければ、馬まご籠めにて見みたる如ごとき跡あとを遺のこすものでない。竈かまどとか、爐ろとか、それ位くらゐの火ひの爲ために出で來きたのでは恐おそらくあるまい。土どき器せい製ざ造うの大おほ窯がまの跡あとかなんぞではないだらうかといふのである。 或あるひは然さうかも知しれぬ。 同おなじ式しき、同おなじ紋もん。瓜うりを二ふたツの類るゐ型けい土ど器きが各かく地ちから出でるのである。それ等らの數すうから考かんがへても、大おほ仕じか掛けを以もつて土ど器きを製せい造ざうしたと云いへる。 石せき器きじ時だ代いに現げん今こんの如ごとき陶たう器きが窯まを造つくつて、其そ所こで土ど器きを燒やいたか否いなか、それは未まだ輕かる々〴〵しく言いひ切きれぬが、馬まご籠めに於おける燒やけ土つち層さうの廣くわ大うだいなるを見みて、然さうして桂けい舟しう畫ぐわ伯はくの説せつを聽きいて見みると、此この大おほ仕じか掛けの土どき器せい製ざ造うといふ事ことに注ちう意いを爲せす﹇＃﹁爲す﹂はママ﹈には居ゐられぬのである。 十月ぐわつ九日か、此この日ひは單たん獨どくで行ゆき、第だい三回くわ目いめ發はつ掘くつの場ばし所よより二三間けん下したの大だん根こん畑ばたけ﹇＃ルビの﹁だんこんばたけ﹂はママ﹈を發はつ掘くつして、第だい四圖づイの如ごとき土ど器きの蓋ふたを得えた。 土ど器きにキツチリ合あつた儘まゝで蓋ふたは未まだ發はつ見けんされて居をらぬ。實みは實み、蓋ふたは蓋ふたとして出でて居ゐるが、形けい式しきから考かんがへても、如ど何うしても土ど器きの蓋ふたでなければならぬ物ものが各かく所じよから出でて居ゐる。 蓋ふたの突つま起みに就ついては、中ちう央わうに一ひと箇つの突つま起みを有ゆうするのと、二ふた箇つの突つま起みを有ゆうするのと、二ふた箇つの突つま起みが上じや部うぶに於おいて合がつし居ゐるのと、大だい概がい﹇＃ルビの﹁だいがい﹂はママ﹈此この三種しゆに區くべ別つする事ことが出で來きると思おもふ。余よの發はつ見けんしたのは此この三種しゆの例れい外ぐわいで、突つま起みの無ないのである。其その代かはり、兩りや端うたんに二ふた箇つづ宛ゞ﹇＃ルビの﹁ふたつづゞ﹂はママ﹈の小せう孔こうが穿うがつてある。紐ひもに類るゐした物ものを通とほして、それを抓つまむ樣やうにしたのかも知しれぬ。︵此この類るゐ品ひん、たしか福ふく島しま縣けん下か新しん地ちか貝ひづ塚かから出でて居をりは爲せぬか︶ 其その後のち又また一回くわい、此こ所ゝを掘ほつたが、格かく別べつの物ものは出でなかつた。發はつ掘くつはそれ切きりであるが、表ひや面うめ採んさ集いしふにはそれからも度たび々〴〵行ゆつた。 三十九年ねん五月ぐわつ十九日にちに行ゆつた時ときには、美びれ麗いなる貝かひ塚づか曲まが玉たまの一種しゆを︵第四圖ニ參照︶表ひや面うめんで得えた。 それだから、如ど何うしても馬まご籠めは捨すてられぬ。 其その忘わすれ難がたき味あぢに引ひかされて、行ゆく事ことは行ゆくが――行ゆく度たびに思おも出ひだしては、歸かへ途りがけに、つい、泣なかされる。――いつも歸かへる時ときは日ひぐ暮れになる。然さうして失しつ敗ぱいでもして、一ひと人り寂さびしく歩あるいて居ゐると、あゝ、あの時とき、二ふた人りつ連れ﹇＃ルビの﹁ふたりつれ﹂はママ﹈で後あとから來きた活くわ東つとうと花くわ舟しうと、あゝ、二ふた人りと共も死しんで了しまつた。茶ちや店みせの息むす子こも能よく忠ちう實じつに働はたらいて呉くれたが、あれも死しんだ。 這こんな事ことを考かんがへ出だした時ときには、仕しか方たが無ないので――併しかし、三千年ねん前ぜんの石せき器きじ時だ代い住じう民みんは、今こん日にちまでも生せい存そん﹇＃ルビの﹁せいそん﹂はママ﹈して我われ等らと語かたる――と云いつた樣やうな事ことを思おも浮ひうかべて、強しひて涙なみだを紛まぎらすのである。