煎藥

長谷川時雨




 
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空襲に更けしづまりて虫の聲
 と口ずさんだので、傘雨さんう宗匠に、これでも俳句となりませうかと、うかがつて見ようと思ひながらそのままになつてゐる。一ツ書いたらば、どうせ恥の上塗り、やかなも知らぬのだから、ヘボ句といふことにさへもなるまいが、

防空の霧ふかき夜を出征す


 いま、耳のはたで、弱い蚊が、細いかなきり聲をたててゐる。
秋の蚊よ眼をくぼませた女なり
 黒い粉藥が、シイツの上に細かく飛んでゐるのを、吹きはらひ、事變ニユースを聽きながらこんなことを書いてゐる。

――昭和十一年十月二日・あらくれ――






底本:「隨筆 きもの」實業之日本社
   1939(昭和14)年10月20日発行
   1939(昭和14)年11月7日5版
初出:「あらくれ」
   1936(昭和11)年10月2日
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2009年1月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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