外から砂さて鐵つの臭にほひを持つて來る海際の午後、 象ざうの戯たはむれるやうな濤なみの呻うな吟りは 壘の﹇＃﹁壘の﹂はママ﹈上に横たへる身から體だを 分ぶん解かいしやうと揉もんでまわる。 私は或日珍らしくも無い原げん素そに成つて 重おもいメランコリイの底そこへ沈しつ﹇＃ルビの﹁しつ﹂はママ﹈んで了ふであらう。 えたひの知れぬ此ひと時の衰へよ、 身みう動ごきも出來ない痺しびれが 筋きん肉にくのあたりを延びて行く………… 限りない物思ひのあるような、空しさ。 鑠やける光くわ線うせんに續つながれて 目まぐるしい蠅はいのひと群むれが旋めぐる。 私は或日、砂すな地ぢの影かげへ身を潜ひそめて 水くら月げのやうに音おともなく溶とけ入いるであらう。 太陽は紅あかい、紅いイリユージヨンを夢みてゐる、 私は不思議な役割をつとめてるのでは無いか。 無い花ち果じ樹くの蔭の籐と椅ゐ子すや、 まいまいつむりの脆もろい殼からの邊あたりへ 私は蠅の群となつて舞ひに行く、 壁かべの廻まはりの紛まぎれ易い模樣にも 一寸臂しりを﹇＃﹁臂を﹂はママ﹈突つき出して止つて見た。 窓まどの下したに死にゆくやうな尨むく犬いぬよ。 私は何い時つしかその上で渦うづ卷まき初める、 ………………………… ………………………… 砂鐵の臭の懶ものういひとすぢ。︵八月︶ ○ 午後の薄うす明あかりの中で、 奇きめ妙うな睡ねむりに落ちて行く 影を曳ひく安あん樂らく椅ゐ子すの 病の身を搖る儘に。 懶ものうげな雨の線す條ぢは 音も無く若葉の匂を煙らす 姿すがたを見せぬ鳥の囀さへづりの 壞くづれた胸に響くことよ！ 永い間の疲つか勞れが 重く夢を壓おす時に 鳥は青い叫さけびを殘のこして翔かける。 春は微笑んでゐるのかも知れないけれど 欝くらい蔭かげを搖る安樂椅子の さけ難がたい睡ねむりに包つゝまれる………… ︵四月︶