大衆文芸は小説と変りはない。西洋人が小説として通用させてゐるものにも大衆文芸的なものは沢たく山さんあるやうだ。唯僕は大衆文芸家が自みづから大衆文芸家を以て任じてゐるのは考へものだと思つてゐる。その為に大衆文芸は興味本位――ならばまだしも好よい。興味以外のものを求めないやうになるのは考へものだと思つてゐる。大衆文芸家ももつと大きい顔をして小説家の領りや分うぶんへ斬りこんで来るが好よい。さもないと却かへつて小説家が︵小説としての威厳を捨てずに︶大衆文芸家の領分へ斬りこむかも知れぬ。都どど々い逸つは抒情詩的大衆文芸だ。北きた原はら白はく秋しう氏などの俚りえ謡うは抒情詩的小衆文芸だ。都々逸詩人を以て任じてゐては到たう底てい北原氏などに追ひつくものではない。次つい手でに云ふ。今の小説が面白くないから、大衆文芸が盛んになつたと云ふのは
だ。古こわ往うこ今んら来い小説などを面おも白しろがる人は沢たく山さんゐない。少くとも講談の読者ほど沢山ゐない。その又小説の少数の読者も二十代には小説を読み、三十代には講談を読んでゐる。︵その原因がどこにあるかは別問題として︶大衆文芸が盛んになつたのはほんたうに小説に飽あき足らないよりも、講談に飽き足らない読者を開拓した為だ。
︵大正十五年六月︶
だ。古こわ往うこ今んら来い小説などを面おも白しろがる人は沢たく山さんゐない。少くとも講談の読者ほど沢山ゐない。その又小説の少数の読者も二十代には小説を読み、三十代には講談を読んでゐる。︵その原因がどこにあるかは別問題として︶大衆文芸が盛んになつたのはほんたうに小説に飽あき足らないよりも、講談に飽き足らない読者を開拓した為だ。
︵大正十五年六月︶