去ル頃御健︵建︶言書ニ国躰を一定し政度ヲ一新シ云々の御論被レ行候時ハ、先ヅ将軍職云云の御論は兼而も承り候。此余幕中の人情に不レ被レ行もの一ヶ条在レ之候。其儀は江戸の銀座を京師ニうつし候事なり。此一ヶ条さへ被レ行候得バ、かへりて将軍職は其まゝにても、名ありて実なけれバ恐るゝにたらずと奉レ存候。此所に能︵よ々くよく︶眼を御そゝぎ被レ成、不レ行と御見とめ被レ成候時は、義︵ママ︶論中ニ於て何か証とすべき事を御認被レ成、けして破談とはならざるうち御国より兵をめし御自身は早御引取 老︵容侯堂︶様に御報じ可レ然奉レ存候。破談とならざる内ニ云云は、兵を用るの術ニて御座候。謹言。
十月
楳 拝首
後藤先生
左右