日本品詞論

折口信夫




      (一)語根
日本品詞組織の考察は動詞の解体からのを便利とする。先づ其の構造の基礎的要素として語根語尾の二部を対立せしめることに付いては、誰も異存の無いはずである。ところが、此の両者の結合の工合に両様の状態がある。
(一)語根×語尾
(二)語根+語尾
(一)便
かく  おす  かつ
めづ  しぬ  いふ
くむ  たゆ  かる
の如き語は、此の類に属してゐる。勿論、此の中には単に語原的意識の明瞭ならぬだけの理由で、実際は(二)に含まれるはずのものもある事と思はれる。
(二)は語根と語尾とが比較的分離し易き関係にあるもので、観念表象の主要と其の属性的判断との結合点を伺ふ事の難くないものである。これにも、
(イ)語根+語尾
(ロ)語根+[#「+」は点線丸囲み]語尾
と云ふ両様の構造がある。(ロ)は勿論、(イ)なる第一形式の転化したもので、形式的に見ると、語根×語尾と云ふ(一)に非常に近くて、曲折的の傾向が明かに認められる。
なす(寝) いそはく(<イソふ) またく(<待つ) はやす(<ゆ) こらす(<懲る) うがつ(<穿く) わがぬ(<曲ぐ) おさふ(<圧す) たゝかふ(<叩く)
これを又形式上から見て、
(A)語根が単に原形の音韻をかへただけのもの
(B)語根が其の原形なる言語の属性の部分観念を表象するために、故意に音韻をかへたものと思はれるものゝ接尾語に結びついて特殊の概念を構成したもの
との二つがある。
内容の上からも亦、
(C)語根語尾の融合により文法的属性の変化を示すもの
(D)時間観念を増加して言語情調を変ずるもの

(A)(B)
(u)(a)


   ※(丸A小文字、1-12-33)

ふるぶ  むつむ  おもる  かする

   ※(丸B小文字、1-12-34)

とゞろく  とよむ  そゝぐ  よゝむ
おどろく  ころぶ  うごく  すゝる
せゝらく  すふ   ふく   さわぐ
きしる   たゝく
これらの語根をなしてゐる擬声語は、総て副詞的の職分を持つてゐる。この場合、語尾は語根の意を拡張することなく聴覚を直に対象の動作に移してゐる。
   ※(丸C小文字、1-12-35)品詞の語根と語尾との粘着
或る種の用言から他の用言に転ずる例は珍らしくない。けれども、それが語尾に対して副詞的の位置をとる場合には直に用言の語根と称することが出来るのである。例へば、
よし>よる     うれし>うれしむ
あらは>あらはる  ころ>ころす
是等は副詞なり形容詞なりの語尾を脱して直に用言語尾に接してゐるので、語根の副詞的の位置を有してをることは明かである。
   ※(丸D小文字、1-12-36)動詞の名詞法と語尾との粘着
動詞の連用法連体法が体言的の性質を持つてゐることは知られてゐることであるが、将然法も終止法も乃至は已然法さへも名詞となることの出来る傾がある。連用法と語尾との用言を構成する事は、其の純粋の体言である性質上分り切つた事実であるから今は省く。
さかる  うわる  はやす  くらす
うまる  くらむ








 12
   19968325
稿
稿


2009411

http://www.aozora.gr.jp/







 W3C  XHTML1.1 



JIS X 0213

調