用言の発展

折口信夫




使ro rofu ro rafu ko kafu ko kofu 
 tukuro-fu katara-fu  tataka-fu kako-fu 
くや・し  うらやま・し  あぶなか・しい  あら・し  やさ・し  たゝは・し
べか・し  めか・し
うごか・す  
さか・る  こが・る  まか・る
などのごとく動詞形容詞助動詞すなはち用言の将然段又はの韻を以て終つて居る語から他の語につゞいてまた用言になつたらしいものがあるかとおもへば、一方には用言の終止段から他の語につゞいて同じく再びある用言を形づくつたらしく見えるものがある。
いつく・し  いきどほろ・し
おそろ・し  さも・しい
うごも・つ
おこ(<く)・す  つも(<む)・る
こも・る  なゆ・ぐ

よそはし=よそほし
このまし=このもし
くるはし=くるほし
よろこはし=よろこほし

きか・す=きこ・す  おもは・す(敬)=おもほ・す  おは・す=おほ・す
とゞろか・す=とゞろこ・す(古事記、岩戸びらきの条)



かなし・む  そゝ・る  かこ・む  いこ・ふ  しづ・る
などの語によつてみても名詞語根説が語根名詞説よりもまさつてゐる事は明かである。

     
    
     
    
    
  
    
    
    
    
    
    
    
    
    
  ()
    
     ()
※(歌記号、1-3-28) ※(歌記号、1-3-28)※(歌記号、1-3-28)鹿 ※(歌記号、1-3-28) ※(歌記号、1-3-28) 
 


尚数行いひそへておくが、語根名詞説が正しくて名詞語根説が誤だと主張する論者に次の現象について説明を促さうと思ふ。
(一) たしかに体言といふべきものであつて、ある接尾語をよんで用言となる理由はどうであるか、即ち、
あき・なふ(あきじこり、あきうど)
音・なふ  まか・なふ(まかだち)
まひ・なふ(わかければ道ゆき知らじまひはせむ下べの使おひてとほらせ  憶良)
荷・なふ  甘・なふ  まじ・なふ(まじ物、まじこる)
等のなふ
たゝ・よふ(たゝふ、たゝはし)
不知イサ・よふ  もこ・よふ(むくめくむく/\し
等のよふ
さき・はふ  わさ・はふ
いは・ふ(は忌、即ちには、ゆゝしのと関係がある)
クサ・は(ちぐさ、くさ/″\)
味・はふ
等のはふ
ちり・ぼふ  よろ・ぼふ  き・ほふ
等のほふ
たゞ・し(正といふ名詞は動詞にたづぬがあることから思ふとたづといふ語があつて、恐らくはその名詞法なのであらう。それに〈しく形〉がついたのである)
ひさ・し(見ずひさに、ひさにふる)  これ・し(これしきもの)
もの・し  もの/\・し  おほやけ/\・し
女・し  おとな・し  われ/\・し(我々しき分際)
こまいぬ・し(狛犬らしくである。枕草子に二ヶ所見えて居る。但し関根先生は狛犬獅子也といはれたけれど、なほ次のくま/\しくなどからみると狛犬しくであらう)
くま/\・しく(きはやかならぬこと。夕顔に、こゝかしこのくま/\しくおぼえ給ふにものゝあしおとひし/\とふみならしつゝ)
等の
なが・らふ(ながるの延と称せられるながらふではない)
等のらふ
その外
めく(とき・めく、うご・めく)
つく(がさ・つく、うろ・つく、そは・つく)
がる(まろ・がる、くら・がる、ひろ・がる)
がる(いやがる、かなしがる)
かふ  く(ぐ)  す(ず)  つ(づ)
ぬ  む  ふ(ぶ)  ゆ  る  う(得)
等の接尾語がついて動詞をつくるのはどう説明するのか。
(二) かれ・す  つき・す  しに・す
などのかれつきしには動詞の連用名詞法でなうて何であるか。

(三) 

(四) わかやか やはらか すみやか などと、
 わかやぐ やはらぐ すみやく などゝは、どちらが前に出来たかなどゝいふ事は別として、やはらかの(か)、わかやかのは何のためについてゐるのかといふことについて詳細の説明がきゝたい。




※(歌記号、1-3-28) ()



(五) 


   
()
︿   ()()()()()()()
()()439-17439-17440-1440-1※(歌記号、1-3-28) ※(歌記号、1-3-28)

440-7440-7440-7
  
  ()()440-9 
  




()()
()
()


()
 




使()
使


   



   
便
()()()()()







448-2 

()
   




  ┌┌む(まし)
  │┤ぶ
むつ┤└る
  │┌睦月
  │┤
  └└睦言 すめらあがむつ かむろぎかむろみ
  ┌ め(探女)
さぐ┤┌る
  │┤
  └└(が)す
(ほ)┌ ひ(葵)
あふ ┤┌る
   │┤ぐ
   └└(ほ)つ
  ┌――(釣錘)
  │┌枝
  ││輪、鞍
  │┤
  ││ごゝろ
しづ┤└おり
  │┌く
  │┤む
  │└る
  │┌か
  │┤
  └└や
  ┌┌しね
  │┤
  │└ち
うる┤┌せし
  │┤ふ(はし、ほす、ほふ)
  └└む
  ┌┌(が)せを
  │┤づち(迦具土神)(記 亦名謂火之※(「火+玄」、第3水準1-87-39)毘古神)
かぐ┤└やひめ
  │   ┌や(やか、やく、やかし)
  │(が)┤
  └   └よふ
  ┌ふ(はし)
たゝ┤
  └よふ(はし、はす)
  ┌づ
  │┌ぬ
  │┤
い ┤└(ゆ)く(ありくはあい〈ゆ〉くなり、あるくはあゆく也、あゆむのゆむ如何)
  └る
  ┌か(―し)
おろ┤┌おろ
  │┤
||└└おぼえ
||┌つく
うろ┤たへる
  │┌が来る(大阪語)
  │┤
  └└おぼえ
     ┌ふ
     │(そ)ぐ(かし、かはし、かす)
(いすゝ)│(そ)し(しむ)
  いす ┤(そ)はく
  || │すぐ
  || │(そ)ばふ(<いそぶ?)
  || └ろこふ(<いそろぐ?)(大殿祭祝詞 神たちのいすろこひあれびまさを云々)
  || ┌く(かし、くる)
  そゝ ┤
     └のかす(<のく)
  ┌┌む
すゝ┤┤
  │└(さ)む(まし)
  └ろ(漫)
     ┌く
     │もつ┐
     │  ├(<む)
    ┌┤もる┘
(ご) ││めく
うぐ  ┤└なふ(はる 集伝 大祓祝詞其他)
むく  │┌と
(もこ)││つく(けし)
    └┤めく
     │む
     │むくし
     └(もこ)よふ
  ┌(ば)る
あぶ┤
  └る
  ┌なふ
うづ┤
  └なし
  ┌た――<とをゝ
わゝ┤┌く
  │┤
  └└ら(らば)
むつ、さぐ、あふ、しづ、うる、かぐ、たゝ、いす(いすゝ、すゝ)、うぐ(むく、もこ)、あぶ、うづ、わゝ、の如き名詞ともつかず動詞ともつかず、八品詞のうちでは先づ感嘆詞に近い体言とみるべき語根が其まゝ又は種々の接尾語の連続によつて動詞とも形容詞とも副詞とも又名詞ともなるので、かういふところから(動詞の終止言がの韻でをはつてる事が共通語根のをはりに多くuをみいだすのに似て居る)、
  ┌   ┌す(将然か音転か)
  │(や)┤
  │   └む
なゆ┤┌む
  │┤(よ)ぶ
  └└(よ)る なよるは馴寄也といふはなゆ・ると説くに如かず
(ぶ)┌す
のぼ ┤
   └る
  ┌む
かく┤す(<さふ)
  │(こ)ふ
  └る
(ぐ)┌む
なご ┤
   └る







       
                   
         
              





                
             
               
               
               
 ()  
                    
                   
                 
                  



                
              
        
()()
汝国之人草一日絞殺千頭云々愛我那邇妹命汝為然者吾一日立千五百産屋是以一日必千人死一日必千五百人生也
とあるのにかまけて、大祓の「国中成出天之益人等我云々」とある語をみな死ぬるよりも生るゝ数のます意だとといて居るがどうもおちつかぬ。神々の御ちかひによつて、まそけく日々にいそしむおほみたからの意と解する方が適切であらう。

※(歌記号、1-3-28)※(歌記号、1-3-28)() 

   ■已然段について
已然段についてはいまだ一つの体言らしいものも見いださぬ。全体已然言と命令言とは形容詞に於て一見してわかる如く、用言の諸活用のうちで何だか特別なものゝ様である。
  将然連用終止〔連体〕〔已然〕
もし四段一元が事実ならば終止と連体とは一つになる。そして上下二段活上下一段活を見ると、将然と連用とにも四段の終止と連体に於けるが如き関係が見られる。動詞活用古形については考のまとまる日をまつて、今はたゞ動詞形容詞活用の各段に於ける体言の有無について卑見をのべて、更に接尾語がこれらの体言について用言をつくることをいうたまでゞある。
今話をはじめにかへして、
いとは・し  いとほ・し  よろこば・し  よろこぼ・し
ゆら・ぐ   ゆる・ぐ   およは・す   およほ・す
等について考へてみると音韻の転とのみもおもはれぬ。どうもある点までは音転といふことも考へて見ねばならぬが、将然と終止とがおの/\ある接尾語をよんで他の用言を再びつくつたものと考へる方が前々からのべた通りでよささうである。
こひ・し  さび・し  わび・し
ゆき・す  死に・す  かれ・す
よぎ・る  ゆり・る  ゆれ・る




つくろふ  は  つくるの終止からをうけたもの
かたらふ  は  かたるの将然からをよんだもの
かこふ   は  かくの終止にがついたもの
たゝかふ  は  たゝくの将然がをうけたもの
()︿
463-1463-1 ki mi 
ki mi 





よそほふ
 よそ・ほ・ふ<よそ・ふ<よす
ひこづろふ
 ひこ・づろ・ふ<ひこ・づる<ひく





つな・ぐ(綱ぐか列ぐか)
かゞ・や・く、おどろ・く、うご(<むく)・く、うな・く、さや・ぐ、そよ・ぐ、そゝ・く、せゝら・ぐ、よろ・ける(>く)、ゑら・ぐ(ゑら/\)
こほろぎはこほろ(擬声)ぐの名詞法か
はらゝ・く、とゞろ・く

(ご)
 ||
すぐ・す、たゞ・す、はや・す、かく・す
のぼ・す(延ぶ、※[#ハングル文字、「└/┴/─/||/─」、465-9]〈高〉)
其他助動詞す

たぎ・つ(おち――、水のたぎち)
もみ・づ(もみは色にや)
い・づ(いる、いぬ、いく)

ふさゝぬ、かたゝぬ
つら・ぬ、つか・ぬ
な・ふは此の二重発展にて其経路必を経たるなり
かゝ(屈)・なふ、たゝ・なは・る

しづ・む、なや・む、シタ・む(大阪語)
かく・む、むつ・む、しわ・む、そば・む、うる・む、せ・む(狭む)
あが(上)・む
(よみ・す、さみ・すも同じ名詞法)

こゞ・ゆ、むく(向)・ゆ、おぼ・ゆ、見・ゆ、たか・ゆ、あま・ゆ、煮・ゆ

ちか・ふ、ねが・ふ、かこ・ふ、つた・ふ等

あらは・る、そゝ・る、まく・る、あか・る、こも(<こむ)・る、かく・る、よす(<す)・る、むつ・る、まさ・る
うは
()
この推論をとぢむるにあたつて、この篇の進行中に自然先達諸家に対して礼を失した点があつたならばひとへにその寛容を希ふのであります。





 12
   19968325
稿
稿




200989

http://www.aozora.gr.jp/







 W3C  XHTML1.1 





JIS X 0213

調

JIS X 0213-


ハングル文字、「ロ/亅/一」    439-17、440-1、440-7
ハングル文字、「○+|」    439-17、440-1、440-7
ハングル文字、「「ロ/亅/一」+|」    440-7
「土へん+婁」    440-9
「○/六」    448-2
ハングル文字、「フ+ト」    463-1
ハングル文字、「ロ」に似た文字    463-1
ハングル文字、「└/┴/─/||/─」    465-9