エー若わか春はるの事で、却かへつて可をか笑しみの落おと話しばなしの方はうが宜いいと心こゝ得ろえまして一席せき伺うかゞひますが、私わたくしは誠に開かい化くわの事に疎うとく、旧きゆ弊うへいの事ばかり演やつて居をりますと、或ある学がつ校かうの教けう員ゐんさんがお出いでで、お前まへはどうも不ふか開いく化わの事ばかり云いつて居ゐるが、どうか然さうなく開かい化くわの話をしたら宜よからう、西洋の話をした事があるかと仰おつしやいました、左さや様うでございます、マア続つゞいた事は西洋のお話もいたしましたが、まだ落おと話しばなしはいたしませんと申まうしたら、落おと話しばなしで極ごく面おも白しろい事があるから一席せき教をしへて上あげようといふので、教をそはり立たてのお話しでございます、拙まづい処ところは幾いく重へにもお詫わびをいたして弁べんじまする。
西あち洋らの子供は至いたつて利りこ口うだといふお話で。或ある著ちよ述じゆつをなさるお方かたがございます。是これはやはり日こち本らでも同じ事で、著ちよ作さくでもなさる方かたは誠に世せ事じに疎うといもので、何ど所こか気きの附つかん所があります、学がく問もんにもぬけてゐても何なにかに疎うといところがあるもので、伊いた太り利ーの著ちよ作さく家かで至いたつて流りう行かうの人があつて、其そ処こへ書ほん林やから、本を誂あつらへまするに、今こん度どは何なに々〳〵の作さくをねがひますと頼たのみに行ゆきまする時に、小こぞ僧うが遣つか物ひものを持つて行ゆくんです。処ところが西あち洋らでは遣つか物ひものを持つて行いつた者に、使つか賃ひちんといつて名を附つける訳わけではないが、弗どるの二ツ位ぐらゐは呉くれるさうでございます。然しかるに其その作さく者しや先せん生せい、物に気きの附つかん先生でございまして、茫ぼん然やりとして居をりますから使つか賃ひちんをやらない。書ほん林やの小こぞ僧うが怒おこつて、あんな吝しみ嗇つたれな奴やつはありやアしない、己おれが行ゆく度たびに使つか賃ひちんを呉くれた事がない、自分の家うちならばもう行ゆきやしないと思つても、奉ほう公こうの身みの上うへだから仕しか方たがなく、マア使つかひにも行いかなければならない。其その次つぎ行いつた時に、腹はらが立ちましたからギーツと表おもてを開けて、廊らう下かをバタ〴〵駈かけ出だして、突いき然なり書しよ斎さいの開ひらき戸どをガチリバタリと開あけて先生の傍そばまで行ゆきました、先生は驚おどろいて先﹁誰だれだえ。小﹁へえ今こん日にちは。先﹁何なんだ、人が書かき物ものをして居ゐる所へどうもバタ〴〵開あけちやア困るぢやアないか。小﹁へえ、宅うちの主しゆ人じんが先生へ是これを上あげて呉くれろと申まうしましたから持もつて参まゐりました。先﹁ウム、マア夫それは宜いいがね、どうもお前まへ何なんぼ使つかひだつて、余あんまり無ぶさ作は法ふ過すぎるぢやアないか、能よく物ものを弁わきまへて見なさい、マア私わたしの家うちだから宜いいが、外ほかへ行いつて然そんな事をすると笑はれるよ、さア使つかひの仕しや様うを僕ぼくが教をしへて上あげるからマア君きみ椅い子すに腰こしを掛かけ給たまへ、君きみが僕ぼくだよ、僕ぼくが君きみになつて、使つかひに来きた小こぞ僧うさんの声こわ色いろを使ふから大おと人なしく其そ処こで待つてお出いで、僕ぼくのつもりでお出いでよ。小﹁へえ、宜よろしうございます。先﹁エー御ごめ免んく下ださい、お頼たのみ申まうします。ト斯かう静しづかに開ひら戸きどを開あけなければ往いかない。小﹁へえー。先﹁エーお頼たのみ申まうします〳〵。小こぞ僧うは、ツト椅い子すを離はなれて小﹁ドーレ。先﹁中なか々〳〵旨うまいな、旨うまくやるねえ。小﹁何どち方らからお出いでだ。先﹁中なか々〳〵うまいね……エー私わたくしは書ほん林やから使つかひに参まゐりましたが、先生にこれは誠に少せう々〳〵でございますが差さし上あげて呉くれろと、主人に斯か様う申まうされまして、使つかひに罷まかり出いでました。小﹁アー大おほきに御ごく苦ら労う、折せつ角かくの思おぼ召しめしだから受じゆ納なふいたしまする。先﹁中なか々なか旨うまいねえ……是これで帰かへりましても宜よろしうございますか。小﹁マア〳〵一ちよ寸つと待まつてお出いで、ポケツトヘ手を入れて空からツポウではありますけれども、紙を畳たゝんで、小﹁これはお使つか賃ひちんだよ、是これからお忘れでないよ。これで先生も使つか賃ひちんをやる事を覚おぼえ、又また小こぞ僧うさんも行ぎや儀うぎが直なほつたといふお話で、誠に西あち洋らの小こぞ僧うさんは狡かう猾くわつで怜りこ悧うの処ところがありますが、日こち本らの小こぞ僧うさんは極ごく穏をん当たうなもので。